(※写真はイメージです/PIXTA)
完済後に訪れた「第二の住宅費」
「これでやっと、家は本当に自分のものになったと思ったんです」
中野大五郎さん(65歳・仮名)。現在、都内近郊の戸建て住宅で妻と2人暮らしをしています。40年近くメーカーに勤め、60歳で定年退職しました。5年前、繰り上げ返済を含めて住宅ローンを完済。退職金の一部を充て、借入残高を一括で返済したそうです。現在の収入は、中野さんの年金だけで月17万円。手取りにすると月15万円ほどです。現役時代からの貯蓄もあり、「贅沢をしなければ十分」と考えていました。
そもそもマイホームを購入したのは、将来的に持ち家のほうが確実だと思ったからです。
「年を取ってから建て替えで退去しなきゃならないとか、家賃の値上げがあったら大変です。持ち家のほうが安心だろうと思って、購入を決めました。ローンさえ終われば、住居費もぐっと軽くなると思っていたんです」
ところが、支出は消えませんでした。これまで10〜15年ごとに屋根や外壁の修繕を実施し、1回あたり100万〜150万円かかってきました。これは分かっていた出費です。ただ、現役時代はボーナスで対応できていました。
「年金生活になってからの100万円は、感覚がまったく違います」
昨年は外壁と屋根の補修で約170万円、給湯器の交換に28万円。さらに固定資産税が年間約13万円かかります。月17万円の年金で日常生活は回りますが、まとまった修繕があると貯蓄を取り崩すしかありません。
「完済したのに、また家にお金を払い続けている感じです」
さらに、将来を見据えて売却も検討しました。子どもは独立し、この家に戻る予定はありません。自宅は最寄り駅からバスで15分。購入当時は新興住宅地として分譲が進んでいましたが、今は高齢世帯が多く、空き家も目立ちます。不動産会社の査定は、想定より低いものでした。築30年超の建物は評価がほぼ付かず、購入希望者は建て替え前提で検討するケースが多いといいます。駅からバス便という立地は、共働き世帯や子育て世帯からは敬遠されやすいとも説明されました。
「立地がすべてです、と言われました。土地の価値はありますが、解体費用で150万円ほどかかる可能性がある、と」
売却益どころか、手出しになる可能性もある。そう聞き、中野さんは言葉を失いました。
「買ったときは、終の棲家にするつもりはなかったんです。いずれ住み替えるかもしれないと。でも、売ることまで深く考えていませんでした」
無理のない返済計画を優先し、身の丈に合った郊外住宅を選択した。その判断自体に後悔はありません。ただ、数十年後の「出口」まで視野に入れたら、少しは無理をしてもよかったのかもしれない、という気持ちもあります。
ローン完済は一つの区切りでした。しかし、住宅の老朽化と立地の現実は、その後も家計に影響を与え続けています。