定年後の「地方移住」は、生活費を抑えつつ自然豊かな環境で過ごせる選択肢として根強い人気があります。しかし、十分な資産と周到な計画を持って移住したはずが、思わぬ誤算に直面するケースは少なくありません。新幹線駅近の好立地へ転居したある夫婦のケースを見ていきます。
〈年金月25万円〉〈退職金3,200万円〉65歳夫婦が地方移住。「新幹線駅徒歩5分・温泉付きマンション」へ転居も、まさかの大誤算に「何かの間違いでは」 (※写真はイメージです/PIXTA)

活動的なシニアほど要注意。見落としがちな「レジャー・交際費」

高橋さん夫婦のように、定年後も活動的な生活を維持しようとして家計が膨らむケースは少なくありません。

 

生命保険文化センター『生活保障に関する調査(2025年度)』によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考える最低日常生活費は月額で平均23.9万円。さらにゆとりある老後生活を送るための費用として、最低日常生活費以外に必要と考える金額は平均15.2万円。つまり月40万円近いお金があれば、誰もが思い描くような“悠々自適な老後”が実現するわけです。

 

一方で、公的年金制度におけるモデル夫婦(夫が厚生年金に加入していた会社員と、国民年金の第3号被保険者である専業主婦の妻)における標準的な年金額は、夫婦2人分で月額約23万円とされています。 年金の手取り額から考えると、ゆとりある老後のためには月20万円程度の赤字となり、その分は貯蓄の取り崩しで賄わなければなりません。

 

地方移住のひとつのスタイルである「トカイナカ(都会に近い田舎)」への移住では、住居費は抑えられるものの、都市部へのアクセスが良い分、レジャーや交際は都会が中心になりがち。そうなると、住居費を抑えた以上に移動コストがかかるケースが多いのです。

 

「生活費が下がる」という前提は、あくまで「現地の水準に合わせて生活を変える」ことができた場合の話。ライフスタイルや交友関係を変えずに住む場所だけを変えても、コストダウンにはつながらない――。リタイア後の移住を考える際、ぜひ考慮すべき「現実的なコスト」といえるでしょう。

 

[参考資料]

生命保険文化センター『生活保障に関する調査(2025年度)』

厚生労働省『令和7年度の年金額改定についてお知らせします』