定年を迎えた多くのサラリーマンが再雇用を選択しています。現役時代に近い環境で働き続けられる安心感がある一方で、そこには収入の大幅な減少や、変わらぬ責任の重さといった「理想と現実のギャップ」が潜んでいます。そんな道を選びながらも、突然、会社を辞める決断をした男性のケースを見ていきましょう。
もう疲れました…61歳商社マン、再雇用も突然のリタイア。年金の繰上げ受給開始で「受取額2割減」でも笑顔でいられるワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「期待しているよ」のひと言で糸が切れた…61歳でのリタイアを決断

都内近郊の賃貸マンションで一人暮らしをする、佐藤信夫さん(66歳・仮名)。佐藤さんは5年前、中堅商社での再雇用契約を自ら打ち切り、完全にリタイアしました。

 

「定年後の再雇用では、現役時代と同じ部署で、給料だけが半分になるという環境でした。それでも責任だけは変わらず、若手社員のミスをフォローしたり、数字を詰められたりする毎日。ある時、会議で上司から『期待しているよ』と言われた瞬間に、胃が締め付けられるような感覚になったんです。定年後も、まだ誰かの顔色を窺って評価を積み上げなきゃいけないのか、と思ったら、急に糸が切れました」

 

当初は65歳まで働く予定でしたが、佐藤さんはその場で退職の意思を固めました。仕事を辞めてから年金の繰上げ受給を選択し、その受給額は月15万円。65歳時の受取額からは、2割ほど減額となったそうです。

 

「自分で決めたこととはいえ、最初は不安でした。手取りにすると月13万円ほどですが、今のところ何とかやっていけています。仕事を辞めてから数ヵ月経つと、驚くほど心が軽くなった。誰からも評価されないし、誰かのフォローもしなくていい。解放感でいっぱいだったんです」

 

佐藤さんの生活は極めて質素です。朝は近所の公園を散歩し、午後は図書館で過ごします。かつて毎晩のように通っていた飲み会も、今は一切ありません。

 

「仕事関係の付き合いは、退職と同時に整理しました。無理に繋がっていても、お互い昔の仕事の話しかすることがないですから。今は、スーパーのレジの方と少し言葉を交わすだけで十分です。人間関係を絞ったことで、自分の時間もお金も無駄に使うことがなくなりました。連日の接待で高級な料理を食べていたころより、自分で選んだ安い食材を工夫して食べる今のほうが、私には合っているようです」