「老後は安泰だ」と信じて疑わなかった人生設計が、ある日を境に音を立てて崩れていく――。かつて定説とされた「老後2,000万円」の貯蓄があっても、決して安心とは言い切れないようです。ある男性のケースをみていきましょう。
「年金は月16万円あるのに…」貯金2,000万円を使い果たした74歳・元管理職。日雇いで得た「日当8,000円」を握りしめ、流した後悔の涙 (※写真はイメージです/PIXTA)

「老後2,000万円」では絶対安心とはいえない

吉田さんのようなケースは、決して特別なものではありません。総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月額約15万円。これに対し、実収入(主に年金)は約12万7000円となっており、毎月約2万3000円の赤字が発生している計算になります。これはあくまで平均値であり、住居費が高い都市部や、医療・介護費用がかさむ世帯では、赤字幅はさらに拡大します。

 

かつて話題となった「老後2000万円問題」ですが、この数字はあくまで「平均的な寿命」かつ「安定した物価」を前提とした試算に過ぎません。昨今の急激なインフレにより、保有している現預金の実質的な価値は目減りしています。

 

たとえば、インフレ率が年2%で推移した場合、1000万円の現金の価値は10年後には実質820万円程度まで下がってしまいます。吉田さんのように「貯蓄を取り崩す」だけの生活設計では、物価上昇のスピードに資産寿命が追いつかず、想定よりもはるかに早く底をついてしまうのです。

 

また、厚生労働省『簡易生命表(令和5年)』によれば、男性の平均寿命は81.09歳、女性は87.14歳。90歳、100歳まで生きることも珍しくない「長寿化」もまた、皮肉にも経済的なリスク要因となります。

 

「逃げ切れる」と思っていた70代が直面する、貧困の現実。長生きをリスクにしないためには、現役時代からの資産形成はもちろん、資産寿命を延ばす工夫も重要になっていきます。

 

[参考資料]

厚生労働省『簡易生命表(令和5年)』

総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』