葬儀は、本来、故人を静かに見送り、その生涯を偲ぶ厳粛な儀式。しかし、参列者や親族が感情的になり、その場が思わぬ修羅場と化してしまうケースも珍しくありません。生前の確執、相続問題、あるいは介護の負担を巡る認識のズレなどが引き金となることも。故人が亡くなったことで抑えられていた不満や誤解が一気に表面化し、故人を悼むはずの場で激しい口論や非難の応酬が始まってしまうのです。
 「19万8000円で家族葬」のはずが…急逝した82歳・父を見送った月収45万円・55歳長男、会計時に震えが止まらなかった「予想外の請求額」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「安く済ませたい」という本音が招いた、取り返しのつかない後悔

「まさか、最後の最後でこんなに後悔することになるなんて思いませんでした。『コミコミ価格』という言葉を、あんなに信じ込むんじゃなかった」

 

都内メーカーに勤務する斎藤健二さん(55歳・仮名)。斎藤さんは先月、82歳の父親を脳梗塞で亡くしたばかりです。母親はすでに他界しており、一人っ子の斎藤さんが喪主を務めることになりました。

 

父親は年金暮らしで、これといった資産もありませんでした。斎藤さん自身は月収45万円と、会社員の平均以上の給与を得ていましたが、物価高の影響で生活に余裕があるわけではなく、正直なところ「葬儀費用はできるだけ抑えたい」というのが本音だったといいます。

 

「病院で父が亡くなったあと、いくつかの葬儀社を紹介されました。そのうちのひとつが、『追加料金一切なし、安心の家族葬プラン・19万8000円』というところ。これなら自分の貯金で無理なく払えるし、父も派手なことを好む性格じゃなかったので、ちょうどいいと思ったんです」

 

斎藤さんはすぐにその葬儀社に連絡し、遺体の搬送を依頼しました。しかし、本当の試練は、遺体が安置所に運ばれたあとの打ち合わせから始まりました。

 

担当者からプランの細目を見せられた斎藤さんは、耳を疑いました。19万8000円のプランに含まれているのは、必要最低限の棺と骨壺、役所手続きの代行のみ。祭壇もなければ、遺影写真の作成費も、ドライアイス代も、安置施設の利用料も含まれていなかったのです。

 

「『このプランだと、お父様にお化粧もできず、お顔色が悪いままのお別れになります』『お花がないと、本当に寂しい出棺になりますよ』と、担当者に次々と言われました。深夜の疲れと、父を亡くした悲しみのなかで『ケチって父を無下に扱った』と思われたくないという見栄も出てしまって……」

 

結局、斎藤さんは「人並みのことはしてやりたい」と、祭壇の花を追加し、棺のランクを上げ、通夜振る舞いの食事も手配しました。その結果、請求書に記載された金額は、当初の予算を遥かに超えるものになっていました。

 

「合計で約120万円。最初の19万8000円とは桁が違いました。ハンコを押したのは自分ですが、『話が違う』という思いが消えません。もっと冷静に、複数の会社を比較していれば……。父には申し訳ないですが、今はクレジットカードの分割払いをどう工面するかで頭がいっぱいです」