(※写真はイメージです/PIXTA)
日焼けした顔に深いシワを刻み、力なく笑うのは、都内の築40年の賃貸アパートで1人暮らしをする吉田浩一さん(74歳・仮名)。吉田さんは現在、週に3日ほど、スポットワークで建設現場や道路工事の交通誘導員として働いています。
この日手にした日当は8,000円ほど。頑張って働いて手にしたはずのお金ですが、吉田さんはポツリと「情けないねぇ」と言いながら目には涙。
現役時代の吉田さんは、中堅企業の管理職として部下を束ねる立場でした。年収はピーク時で800万円を超え、60歳で定年退職した際には、退職金を含めて約2000万円の貯蓄があったといいます。
「60歳でリタイアしたんですよ。やっと仕事から解放された、これからは人生バラ色だ、と思っていました。特別支給の年金をわずかだけどもらって、65歳からは月16万円ほどの年金をもらうことができる。貯金も2000万円あるから、65歳になるころには半分くらいになったとしても大丈夫だろうと思っていました」
しかし、計算が狂い始めたのは60代後半からです。頼りにしていた妻が病に倒れ、2年間の闘病の末に他界。治療費やその後の葬儀費用で、予定よりも早く資産が減っていきました。さらに吉田さんを追い詰めたのが、昨今の「物価高」です。
「妻がいなくなって外食や惣菜が増えたこともありますが、とにかく何を買うにも高い。スーパーで特売の卵を見つけても、数十円の違いを気にしてカゴに入れられない。電気代が怖くて、真夏でもエアコンをつけずに濡れタオルを首に巻いて凌いでいました」
ある日、通帳の残高を確認したところ、残高はわずか30万円。年金支給日の数日前には財布の中身が数百円になる月も増えていました。
「手取りで年金月13万円ほどだと、家賃と光熱費、医療費を払えば、食費にかけられるお金なんて……。それで最近はスポットワークをやっているというわけ。体力勝負の仕事のほうが稼げるから積極的にこなしているけど、大変だね」
現役時代、「老後のために」と、それなりに頑張って2000万円を貯めたといいますが、14年ほどで溶かしてしまった吉田さん。もっと長く働くべきだった、ただ貯金しておくだけでなく投資をしておくべきだった……後悔の言葉ばかりを口にしてしまいます。