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「私はまだ若いから大丈夫」母の過信と、娘の遠慮が招いた悲劇
「集中治療室で管につながれた母を見たとき、自分の頬を張り倒したい気分でした。『あの時、無理やりにでもリフォーム工事をしていれば……』その悔やみだけで、最近は夜も眠れないんです」
関東地方でパート勤務をする山本由美さん(54歳・仮名)。由美さんは実家で1人暮らしをしていた母・敏子さん(82歳・仮名)を、家庭内での転落事故で救急搬送した経験があります。
敏子さんは80代になっても足腰が丈夫で、毎朝のラジオ体操と庭いじりを日課にするほど元気な女性でした。
「自分はまだまだ現役」が口癖で、杖を使うことすら「年寄りくさい」と拒むような気丈な性格だったといいます。事故が起きたのは、築45年になる木造の実家。昔ながらの急な階段には手すりがなく、滑り止めのマットも敷かれていませんでした。
「半年前、私が実家に帰ったときに『そろそろ手すりを付けようよ』と提案したんです。業者に見積もりまで取って、費用は20万円ほどでした。でも母は、『そんな年寄り扱いしないで。お金がもったいない』と猛反発して……。私も、母の機嫌を損ねるのが面倒で、それ以上強く言えなかったんです」
しかし、その油断は最悪の結果を招きます。ある雨の日、2階のベランダから洗濯物を取り込もうとした敏子さんは、階段の最上段で足を滑らせ、そのまま1階まで転がり落ちてしまったのです。発見されたのは、事故から数時間後。電話に出ないことを不審に思った由美さんが駆けつけたとき、敏子さんは廊下で動けなくなっていました。診断の結果は、大腿骨頸部骨折と脳挫傷。一命は取り留めたものの、医師からは「以前のように歩くことは難しいでしょう」と告げられました。
「リフォーム代の20万円なんて、入院費や介護費用に比べたら安いものでした。母のプライドなんて無視して、勝手に工事をしてしまえばよかった」
由美さんは、実家の階段を見るたびに、あの日の母の悲鳴が聞こえるような気がして、足がすくむといいます。