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教育費貧乏で貯金100万円…「今さら投資?」と笑われた50歳の決断
「定年まであと10年しかないのに、貯金が100万円。老後はどうなるんだろう……そんな気持ちでいっぱいでした」
そう語るのは、先日定年退職を迎えたばかりの田中健一さん(60歳・仮名)。都内の中堅メーカーに勤務し、最終役職は係長。真面目だけが取り柄で、社内では「万年係長」と揶揄されているのを、田中さん自身も知っているといいます。
10年前、田中さんは深刻な「教育費貧乏」に陥っていました。長男が大学に通うなか、次男も大学入学が決まり、家計は火の車。住宅ローンの返済も続くなか、手元の現預金は100万円程度しかなかったそうです。
「当時は『老後資金が2,000万円不足する』と騒がれる前でしたが、それでも50代にして貯金が100万円しかない、という状況に、相当な焦りがありました」
ただ貯金をしていただけでは、ダメなのではないか。そこで、まずは勉強と、ランチタイムに資産運用の本を読んでいたところ、20代の部下が話しかけてきました。
「田中さん、資産運用って……今さら遅くないですか? 田中さんの年齢だったら、貯金のほうが安全だし、確実ですよ」
悪気のない言葉でしたが、少し笑いを含む話し方に、小さく傷ついたという田中さん。「今さら遅い」という事実は、誰よりも自分自身が痛感していたからです。
「しかし、何もしなければ変わりません。部下に笑われようが、まずは挑戦してみることにしたんです」
田中さんは、毎月の小遣い3万円を返上し、飲み会も断り、家計を見直して捻出した資金で「月5万円」の積立投資を始めました。投資先は日本株のインデックスファンド。途中からは、世界株式のインデックスファンドにも分散して、積立投資を続けたといいます。
相場の変動に一喜一憂せず、ひたすら積み立てていく。コロナショックで資産が減ったときも、部下の「やっぱり現金最強ですよ」という言葉を聞き流し、積立を止めませんでした。
そして迎えた、60歳の定年の日。田中さんは再雇用制度を利用し、契約社員として働き続けることを選択しましたが、月収は4割減。まるで新入社員という水準ですが、それでも年金を受け取るまでの収入の空白期間を埋めることを優先しました。
定年まであと10年。このままでは老後は……そう不安に思っていた、あのころの自分とは違うと田中さんは振り返ります。
「先日、10年間の成果を妻に見せたんです。スマホで証券口座の画面をほらっ、と。元本600万円。さらに近年の株高の恩恵を受けて評価額は1,000万円近くになっていて。妻は『すごい……』と、ちょっと涙を浮かべていたかな」