(※写真はイメージです/PIXTA)
8ヵ月ぶりの実家で直面した「冷蔵庫が空っぽ」
「先日、夜中に母から電話が来て『お腹が空いた、助けて』と泣いているんです。最初は寝ぼけているのかと思いましたが、母の声の震え方が尋常ではなかったので、一大事だと直感し、始発電車で実家に向かいました」
都内のメーカーに勤務する佐藤健一さん(55歳・仮名)。実家は電車を乗り継いで5時間ほどの地方にあり、帰省するのは年に1、2回ほどだといいます。
すでに父は他界し、実家には82歳になる母、佐藤良子さん(仮名)が1人で暮らしています。 「最近のことでいえば、心配なのは『お金が足りているのか』ですよね。物価高なので」と健一さん。良子さんの年金は月額約15万円程度だといい、また持ち家なので、決して生活に困窮する金額ではありません。だからこそ、「お腹が空いた」と連絡があったときは、「騙されて一文無しにでもなったのではないか」と危惧したといいます。
実家に着き、家にあがると、母の良子さんは痩せこけ、呆然とリビングに座り込んでいました。さらに冷蔵庫を開けると、中は空っぽ。調味料以外に食料が何ひとつありません。 何か口に入るものは……と探してみるものの見当たらず、まずは急いでコンビニでおにぎりを買ってきました。良子さんはそれをむさぼるように食べたといいます。
「落ち着いてから話を聞くと、通帳とキャッシュカードはあると言うんです。でも『銀行に行ってもお金を引き出せない』の一点張り。不審に思って通帳を見ると、残高は数百万単位でありました。年金も振り込まれている。さらに話を聞くと、どうも暗証番号を完全に忘れているようで」
健一さんは母を連れて銀行へ向かいました。そこで窓口の行員が本人確認をしようとしても、良子さんは自分の生年月日すらあやふやな状態。会話が成立せず、明らかに認知能力が低下していると判断されました。
「私が息子だと身分証を出して説明しても、『ご本人様の意思確認ができない以上、引き出しには応じられません』と断られました。不正引き出し防止のためだと頭ではわかっていても、目の前に困っている親がいるのに、自分のお金すら使えない。母は『私の大切なお金なのに』と子どものように泣き叫ぶし、行員もお手上げ状態で……。結局、その日は私が自分の財布から当面の生活費を出し、食料を買い込むしかありませんでした」