親が子につく嘘には、墓場まで持っていくべきものと、いつか話さなければならないものがあります。明日、娘が嫁に行く。そのタイミングで、母親がどうしても伝えておかなければならなかったこととは? ――それは、娘が信じてきた家族の歴史を根底から覆す、あまりに重い告白でした。※事例は、FPの川淵ゆかり氏のもとへ寄せられた過去の相続相談をプライバシーのため一部脚色して記事化したものです。
ずっと何かがおかしいと思ってました…明日結婚する28歳女性、母から明かされた30年前の「我が家の秘密」。式翌日、父が「遺言」を作りに走ったワケ【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

父親が娘のためにとった行動

その後、Aさんの母親は、嫁ぐ娘に秘密を告白したことを父親に伝えたようです。父親は「いつかはバレる」と覚悟はしていたものの娘に申し訳ない気持ちになり、将来娘から離れて暮らす息子に連絡させなければならないと思うと、心が苦しくなりました。

 

そこで父親は、専門家に相談したところ、公正証書遺言を作成することをアドバイスされます。

 

公正証書遺言とは、被相続人が生前、公証役場にて、公証人と証人2名の立ち合いのもと、署名押印を得て作成する遺言の一種です。専門家が関与するため、形式不備で無効になる心配がありません。また、遺言のなかで「弁護士」などの専門家を「遺言執行者」に指定することができます。この遺言執行者は、相続財産の分配や名義変更などを代理で行う権限を持ちます。

 

これにより、将来相続人となるAさんや母親が、異母兄と直接やりとりをしたり、煩雑な書類手続きをしたりする負担を避けることが可能です。

 

なお、遺言書には「付言事項」として家族へのメッセージも記述することができます。Aさんの父親は次のように付け加えました。

 

「寂しい思いをさせてしまった息子にも、同じように父としての責任を果たしたいと思っています。どうか公平に扱ってほしい。そして、皆がそれぞれの人生を前向きに歩んでいけるよう祈っています。」

娘の思い

後日、父親はAさんを呼び寄せ、静かに話を切り出しました。

 

「母さんから聞いたと思うが、異母兄のことはずっと気になっていた。お前や母さんに負担をかけたくないと思って、公正証書遺言を作ってきたんだ。弁護士を遺言執行者にしてあるから、将来お前が直接やりとりをする必要はない。安心していい」

 

そういって父親は、遺言を作成した事実を説明し、娘の不安を取り除こうとしました。Aさんはまだ複雑な気持ちを抱えていましたが、父親の誠実な配慮に胸が熱くなり、「この人の子どもでよかった」と思わずにはいられませんでした。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表