「離婚する気力はないが、一緒に暮らすのは限界」――そんな熟年夫婦の現実的な選択肢として「卒婚」が注目されています。別居や離婚の最大のハードルとなる「住まい」の問題を解決する「贈与税の配偶者控除」とは? Aさんの事例を通じて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説していきます。※事例は、過去の夫婦間の贈与相談をプライバシーのため一部脚色して記事化したものです。
「定年後は夫婦で旅行に行こう」退職金2,000万円・58歳夫の提案に、55歳妻は“真顔”で返答。3LDKマイホームから1K賃貸へ追放された夫が味わう〈戦慄の予行演習〉【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

両親が卒婚を選んだワケ

なぜ卒婚したのか、不思議に思うAさんに、母親はその理由を語りました。

 

「お父さんからね、『もうすぐ定年だし、落ち着いたら2人で旅行にでも行こうか』っていわれたのよ。私、思わず『なんで?』って口から出ちゃったの。あぁ、お父さんが定年になったら朝から晩までずっと2人きりなんだ。仕事だ、ゴルフだって、ほとんど家にいなかったのに、これからはこんなわがままな人と2人きりなんだ、って思ったらなんだか悲しくなってきちゃって。急に1人で自由になりたくなったのよ」

 

1Kマンションで独り、父の寂しげな背中

その後、Aさんは父親のマンションを訪ねました。笑顔で迎えてくれた母親とは対照的に、父親に元気はありません。

 

「いやぁ、真顔でいきなり離婚を切り出してきてね。こっちも青天の霹靂だったよ。怒ったら泣き出すし、わめくし、あんな母さん初めてみたから手が付けられなかったよ。まだ会社にも勤めているし離婚はまずいからとりあえず別居しようと思ってね。家はいままでのお詫びというか、お礼だよ。俺には2,000万円近い退職金も入る予定だし、年金だってそれなりにもらえる。家を渡しても、一人で細々と暮らす分には困らないさ。定年になったら離婚するかどうかはわからないけど、いまはご機嫌取っておかないとね」

 

父はそう寂しげにいいました。その姿をみて、Aさんは自分が育児の忙しさから近ごろあまり夫と話をしていないことに気づきます。「今日は夫の好きなケーキでも買って帰ろう」Aさんはそう心に決めるのでした。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表