組織の要であるはずの管理職。 上層部と現場の板挟みとなり、日々の調整業務に忙殺される――これは単なる個人の問題ではないようです。 多くの管理職が直面する「燃え尽き」の深刻な実態と、その背景にある構造的な要因について、最新の調査データから探ります。
もう心が折れそうだ…上司と部下の板挟み、調整と謝罪の無限地獄にはまる「45歳課長」。管理職の半数が「燃え尽きる」本当の理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

管理職の半数が「燃え尽き」。疲弊の裏に潜む「キャリア不安」という火種

多くの企業で、組織の要であるはずの管理職が深刻な疲弊状態に陥っています。 彼らは、上層部の期待と現場の現実との間で引き裂かれ、膨大な業務と責任を一身に背負い込んでいます。

 

かつては「昇進」が明確なモチベーションとなり、権限と報酬がその負担に見合うものでした。 しかし、管理職のなかにはプレイングマネージャーとして自らも成果を出すことを求められ、さらに部下の育成、コンプライアンス遵守、多様な働き方への対応といった、かつてないほど複雑化したマネジメント業務に忙殺されています。

 

その結果、田中さんが感じていたように「何のために働いているのか」「自分は成長できているのか」という根源的な問いに対する答えを見失いがちになります。 こうした「燃え尽き(バーンアウト)」が、個人の問題ではなく組織構造の問題であることを、株式会社東邦メディアプランニングが実施した調査(2025年10月、全国の20代~50代の正社員300名対象)が浮き彫りにしています。

 

調査によると、正社員のうち「燃え尽き(バーンアウト)を感じたことがある」(「よく感じる」7.3%、「時々感じる」30.3%の合計)と回答した人の割合は37.6%に上りました。 この傾向は、階層別に見るとさらに深刻です。 一般社員層で燃え尽きを実感している割合が35%近くだったのに対し、管理職以上の層では51.0%。 田中さんのような、企業の成長を牽引すべきマネジメント層の実に半数以上が、深刻な疲弊状態にあることが明らかになりました。 これは、組織運営上の重大なリスクといえるでしょう。

 

では、社員は何によって燃え尽きてしまうのでしょうか。 調査で燃え尽きの理由を尋ねたところ、最大の要因は「仕事量が多すぎる/残業が多い」(33.0%)であり、純粋な過剰労働が心身を疲弊させている実態が浮かび上がりました。 しかし、問題は業務量だけではありません。 2番目には「成果が見えづらい/達成感がない」(28.0%)、3番目には「努力が評価されていないと感じる」(24.0%)が続いています。 自身の貢献が組織の成果にどう結びついているのか不明瞭であり、さらにその努力が正当に評価されていないという「報われなさ」が、社員の意欲を著しく削いでいると考えられます。

 

この傾向は、階層ごとに異なる様相を見せます。 一般社員では、「仕事量が多すぎる」(28.4%)がトップであるものの、「努力が評価されていない」(24.2%)、「成果が見えづらい/達成感がない」(24.2%)がほぼ同率で続きます。 リーダー/主任クラスでは、「仕事量が多すぎる」(36.8%)が突出していますが、次いで「成長機会の欠如」(33.3%)が顕著です。 自身のキャリア停滞への焦りが強く表れています。

 

そして、田中さんと同じ管理職以上では、「仕事量が多すぎる」(46.9%)と「成果が見えづらい/達成感がない」(40.8%)が、他階層を圧倒的に上回る結果となりました。 さらに「努力が評価されていない」(30.6%)も高く、重い業務責任を負いながらも、その成果やプロセスが適切に評価されていないと感じている管理職の姿が明確になりました。 さらに「仕事の意義を見失った」(18.4%)や「人間関係が悪い」(18.4%)といった項目も他層より高く、成果責任のプレッシャーのなかで孤立し、バーンアウトしていく管理職の姿が透けて見えます。

 

今回の調査で最も注目すべき点のひとつは、燃え尽きを実感している層が何を求めているか、という分析です。

 

燃え尽き層と非燃え尽き層で会社に求める支援を比較したところ、「メンタルヘルス支援やカウンセリング体制」や「有給・リフレッシュ休暇など制度充実」では、燃え尽き層が心身の休息やケアを強く求めていることが明確に示されました。 しかし、差が大きかったのはそれだけではありません。 「キャリア支援やスキルアップのための研修の実施」を求める割合が、非燃え尽き層では7.6%であったのに対し、燃え尽き層では19.4%と、11.8ポイントもの大きな差が生じたのです。

 

これは、田中さんが「自分だけが時代に取り残されていく焦り」を口にしていたことと同様です。 燃え尽きを感じている社員は、目先の業務負荷に苦しむと同時に、「今の職場で成長できているのか」「このままのキャリアで良いのか」といった、将来への見通しの立たなさに対しても強い不安を抱えていると考えられます。

 

「立ち止まるのも、ひとつの選択かもしれない。思い切って転職サイトに登録をしてみました。すると、結構オファーが来るんですね。自分の市場価値がわかって、『まだまだいける』と思えるようになりました」

 

[参考資料]

株式会社東邦メディアプランニング『正社員の4割が「燃え尽き」を経験、管理職では5割超に—燃え尽き層ほど学びを求める傾向【燃え尽き調査レポート】』(2025年10月)