離れて暮らす高齢の親。心配は尽きません。「元気にしてる?」「何か変わったことはない?」そのように連絡はしてみるものの、大抵「心配するな」と返されるのが定番です。しかし、知らぬところでとんでもない事態に巻き込まれていることも。ある親子のケースをみていきます。
「NTTの人」から電話が…78歳・元教師の父「親切な人だったぞ」とニッコリも、45歳息子が実家で見た〈謎の請求書〉の正体に愕然 (※写真はイメージです/PIXTA)

「しっかり者の父」が信じ込んだ、電話口の親切な説明

「うちの父は元教師で、本当にしっかりした人なんです。自分でもそう思っていて……だからこそ、今回の件は家族としてもショックでした」

 

田中大輔さん(45歳・仮名)。東北の実家で暮らす父・良雄さん(78歳・仮名)と母・和子さん(75歳・仮名)はともに健康で、身の回りのことも自分たちで問題なくこなしていました。きっかけは、大輔さんが実家にかけた一本の電話。

 

「たわいもない世間話をしていたら、父が不意に『そういえば、NTTの人から電話があってな。インターネットの契約を見直したんだ』と言い出したんです」

 

大輔さんは、その言葉に強い違和感を覚えました。数年前、実家のインターネット回線は大輔さんが手続きを行い、A社(NTTとは別の通信会社)の光回線を利用しているはずだったからです。

 

「『NTTじゃなくてA社じゃないの?』と聞いても、父は『いや、NTTの人だって言っていたぞ。今の契約より料金が安くなると親切に説明してくれた。だからお願いすることにしたんだ』と、とてもにこやかに話をしてくれました」

 

良雄さんのあまりにきっぱりとした口ぶりに、大輔さんは「もしかしたら、自分が知らないNTTの新しいサービスでもあるのかもしれない」と、その場はいったん引き下がりました。しかし、翌週末、大輔さんは実家へ。インターネットの契約変更についての話題に触れると、数日前に届いたという契約書を見せてくれました。大輔さん、その中身を見て言葉を失ったといいます。

 

「そこにあったのは、請求書と契約書の控えでした。差出人は『NTT』ではなく、まったく聞いたこともないB社という会社。しかも、回線契約そのものではなく、高額な『訪問設定サポート費用』と、月額数千円の『オプションサービスパック』の契約になっていたんです」

 

請求書には、初期費用として5万円近い金額が記載されていました。大輔さんが良雄さんを問いただすと、良雄さんは最初、「NTTの関連会社だと言っていた」と戸惑いを見せました。

 

「父が言うには、『NTTの回線をご利用いただきありがとうございます』と電話が始まり、そのまま今の利用状況を聞かれ、『お客様の契約ですと損をしている。こちらで最適なプランに見直します』と言われたそうです。父はてっきり、NTT(あるいはA社)からの親切な見直し提案だと思い込んでしまったようです」

 

大輔さんが契約書をよく確認すると、小さな文字で「当社はNTTとは関係ありません」といった旨の記述がありましたが、電話口での説明では、巧みに「NTT」という単語を織り交ぜ、誤認を誘うようになっていたのです。

 

「『自分は理解している』『お得な情報を教えてもらった』。そう信じ込んだ父は、電話口で『はい、はい』と承諾してしまった。しっかりしている人ほど、自分の理解や判断を疑わない。そこを突かれたんだと思います」

 

幸い、契約書面を受け取ってからギリギリ8日以内でした。大輔さんはすぐにB社に連絡し、電気通信事業法の「初期契約解除制度」を利用する旨を伝え、契約を白紙に戻すことができました。もし大輔さんの訪問が1日遅れていたら、高額な初期費用と月額料金を支払い続けることになっていたかもしれません。

 

「何より堪えたのは、父が『まさか自分が』とひどく落ち込んでしまったことです。あのしっかりしていた父が、すっかり自信を失ってしまったようです」