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「風呂キャンセル」と「サウナ」に共通する若者の目的志向
前述の田中さんたちのように、若者の入浴に対する価値観は多様化しています。株式会社アスマークが実施した『若者のお風呂に関するアンケート調査』では、こうした実態がデータとして裏付けられています。
まず、「風呂キャンセル界隈」の定義として最も多かったのは、「特に理由はなく、入浴しない日があること」(3割強)でした。期間については「2~3日間」が4割強と最多で、病気や断水といった物理的な制約ではなく、気分によって入浴を「選択的に」休む、というニュアンスが強いことがわかります。入浴しない理由としては、「めんどうだから」「疲れて入浴する気力がないから」が上位を占めました。
注目すべきは、ここに顕著な男女差が見られた点です。この2つの回答は、いずれも女性が4割を超えており、男性との間には20ポイント近い差がありました。これは、事例の田中さんが語ったように、メイク落としやヘアケア、スキンケアなど、女性特有の入浴に付随する工程の多さが、疲れた夜の入浴を高いハードルにしている事情がうかがえます。時間を効率的に使いたい「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する現代の価値観も、この傾向を後押ししているようです。
今回の調査で非常に興味深いのは、同じ「入浴しない層」であっても、サウナ習慣の有無によって意識や行動に大きな違いが見られたことです。入浴しない理由について、入浴はしないがサウナには行く層(事例の鈴木さんのようなタイプ)は、「めんどうだから」という回答が約2割にとどまり、入浴もサウナもしない層と比較して14ポイントも低くなりました。
この結果から、サウナ層は入浴行為自体が面倒なのではなく、目的のない日常的な入浴に対して意欲が湧きにくいだけ、という可能性がうかがえます。彼らにとってサウナは、「ととのう」という明確な目的が期待できる活動であり、そのための入浴は厭わないのでしょう。
対照的に、入浴もサウナもしない層(佐藤さんのようなタイプ)では、入浴しなかった日に「何もしない」と回答した人が4割以上にのぼりました。これは、サウナ層に比べて28ポイント以上も高い数値です。特に、入浴もサウナもしない男性に限ると、その割合は5割に達しました。さらに、この層の男性は、入浴しなかった際に気になる体の部位について、すべての項目で「気になる部位はない」という回答が最多となり、衛生観念そのものにも違いが見られる結果となりました。
一連の調査結果から、若者の間で入浴が「毎日必ず行うべき衛生習慣」という義務から、個々の価値観による「選択的行動」へと変わりつつあることがわかります。
SNSで共感を呼ぶ「風呂キャンセル」は、タイパを重視し、日々のタスクを効率化したいという現代的なニーズの表れであり、特に入浴に手間がかかる女性にとっては、心身のエネルギーを温存するための合理的な選択肢となっているのかもしれません。その一方で、ブームが続くサウナは、若者がウェルビーイング、つまり心身の健康や充実を強く求めていることの表れといえるでしょう。
この「風呂キャンセル」と「サウナブーム」は一見正反対のようですが、実は「目的志向」という共通の価値観でつながっていると考えられるのです。
[参考資料]