奨学金という名の「借金」を背負って、社会人生活をスタートさせる若者が後を絶たない。学費高騰などを背景に、学ぶための負債は一般化している。だが、その返済負担が若者のキャリア選択を制限している実態は、個人の努力で解決できる問題ではなく、社会全体の構造的な課題となっている。本記事では、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が、31歳女性の事例とともに、広がる教育格差の現状と、奨学金制度が抱える課題に迫る。
「かわいそうな子」と憐れまれた少女時代…母子家庭で育った年収450万円・31歳NPO職員、“600万円の借金”を背負うきっかけとなった〈高校2年の担任からのひと言〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

母親は昼夜問わず働きづめ…ひとりぼっちで過ごした子ども時代

中部地方出身のAさんは、現在は東京都を拠点に働く31歳のNPO職員だ。

 

両親はAさんが2歳のときに離婚し、母子家庭でひとり娘として育った。母親は、昼は介護福祉士、夜は飲食店でも働き、昼夜問わず働き詰めの日々だった。Aさんは夜間保育に預けられることも多く、「さみしい」と感じた記憶はないものの、母親とゆっくり食卓を囲んだ思い出もほとんどないという。

 

母親は仕事から帰宅すると、介護現場で暴言や暴力を受けた話を口にすることもあった。疲労困憊な母の姿を見て、Aさんは「同じようにはなりたくない」と幼いながらに思った。

 

「普通」じゃない、「かわいそうな子」…幼いころからあった“自覚”

幼いころから、家にお金がないことや、父親がいない家庭が「普通」でないことを感じとっていた。

 

小学校に入ると、友達が家族旅行や習い事の話を楽しそうにするのを聞くたびに、「自分もみんなと同じようにしたい」と、仕事で疲れきった母親にわがままをいって叱られることもあった。中学生になると部活動が始まり、練習用具を新調したくてもいいだせなかったり、試合があること自体を母親にいえなかったりしたこともあったという。

 

友達の親が自分を「かわいそうな子」とみていることも、なんとなく察していた。熱心に応援に来る友達の家族をみて、「自分は将来、子どもに時間もお金も愛情もめいっぱい注いであげられる親になりたい」と思うようになった。