奨学金という名の「借金」を背負って、社会人生活をスタートさせる若者が後を絶たない。学費高騰などを背景に、学ぶための負債は一般化している。だが、その返済負担が若者のキャリア選択を制限している実態は、個人の努力で解決できる問題ではなく、社会全体の構造的な課題となっている。本記事では、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が、31歳女性の事例とともに、広がる教育格差の現状と、奨学金制度が抱える課題に迫る。
「かわいそうな子」と憐れまれた少女時代…母子家庭で育った年収450万円・31歳NPO職員、“600万円の借金”を背負うきっかけとなった〈高校2年の担任からのひと言〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

借りても返せる社会へ…企業に求められる「奨学金」の制度改革

Aさんのように、苦しい環境でも学びを続け、社会に貢献する人材が増えれば、日本の未来は変わるはずだ。

 

だが現実には、奨学金=借金というイメージから進学を諦める若者や、奨学金を利用して進学した人であっても、返済負担の大きさから結婚・出産・自己投資を先送りにしたり、諦めたりするケースも少なくない。

 

こうした現状を踏まえると、奨学金は「借りても返せる社会的サポート」でなければならない。企業は「人材が足りない」「優秀な人を採用したい」と嘆く前に、未来の人材を育てるための社会的投資を考える必要がある。そのひとつが「奨学金の代理返還制度」だ。これはCSR活動ではなく、“未来の人材育成”に直結する経営戦略である。

 

教育格差の是正は、社会全体の再生産力を高める。企業がその一翼を担うことこそ、持続可能な社会づくりの第一歩だと私は考えている。

 

〈参考〉

一般財団法人あしなが育英会「あしなが高校奨学金 過去最多1878人を採用」

https://www.ashinaga.org/media/news/24877/

厚生労働省「2022年(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf

認定特定非営利活動法人キッズドア「模試を受けられない子ども達——経済格差が生む教育格差」

https://kidsdoor.net/column/staff/20251016.html

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者