物価高騰が続くなか、経済的な合理性から「実家暮らし」を選ぶ働く女性が増えています。調査によれば、実家暮らしの人は生活満足度が高いという結果も。しかし、その選択が長期的な資産形成や結婚観において、思わぬ「罠」となっている可能性が指摘されています。
〈手取り20万円〉32歳・実家暮らし女性の告白。「海外旅行に行ける」「好きな服を買える」でも、婚活で直面した「痛い現実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

生活満足度は「実家」が上でも、「資産」と「結婚観」の罠

株式会社キャリアデザインセンター/女の転職type が行った調査によると、正社員として働く20代・30代の女性のうち、現在、実家で暮らしている人は4割以上(20代42.2%、30代41.0%)にのぼることがわかっています。

 

なぜ彼女たちは実家で暮らすのでしょうか。理由の上位3つは「自立できるお金がない」(34.8%)、「貯金、節約したい」(30.9%)、「趣味や旅行にお金を使いたい」(21.9%)と、金銭的な理由が占めています。物価の上昇に賃金が追いつかないなか、経済的負担を軽減するための合理的な選択といえます。

 

興味深いのは、この選択が一時的なものではない可能性です。今後、実家を出る予定があるかという問いに対し、「いいえ」(32.0%)と「わからない」(27.0%)を合わせると約6割が、今のところ実家を出るつもりがないことがわかります。これは、木村さんの事例にもあったように、実家暮らしのメリットを積極的に活用している実態を反映しているようです。

 

事実、「実家に入れているお金」は、「お金を入れていない」(33.1%)が最多。家事の分担割合も、「1~2割」(32.6%)が最も多く、「まったく負担していない」(14.6%)と合わせると、約半数の人が家事の大部分を家族に任せている状況がうかがえます。

 

こうした経済的・時間的な余裕は、生活の満足度に直結しています。 現在の暮らしの満足度について、「大変満足」「やや満足」を合わせた満足派の割合は、実家暮らしの人が49.4%だったのに対し、ひとり暮らしなど実家暮らし以外の人は41.8%。実家で暮らす人のほうが、生活への満足度が高いという「逆転現象」が起きていました。

 

一方で、現在の金融資産(預貯金、株式など)について尋ねたところ、「100万円以上」の資産を持つ人の割合は、実家暮らし(44.9%)より、実家暮らし以外の人(54.0%)のほうが多い結果となりました。 金融資産の平均額で見ても、実家暮らしが275万円、実家暮らし以外が360万円と、85万円もの開きがあります。

 

これはひとり暮らしの人のほうが、将来への不安からより強く資産形成を意識し、計画的に貯蓄に励んでいる、ということでしょうか。さらに、もし結婚する場合、相手にひとり暮らしの経験を求めるかという質問に対し、実家暮らしの人で「求める」と答えたのは51.7%でしたが、ひとり暮らし経験者では、74.8%に達しました。ひとり暮らし経験者ほど、相手にも金銭管理や家事全般を自分ひとりでこなす「生活の自立」を求める傾向が強いのです。実家暮らしが長いことが、知らず知らずのうちに結婚相手に求める条件のミスマッチを生む一因となっている可能性は否定できません。

 

調査元の考察にもあるように、家族と過ごせる安心感や家事負担の軽減といったメリットがある「実家暮らし」は、不安定な社会を生き抜くための、現実的でクレバーなライフ戦略のひとつです。しかし、その選択が日々の満足度と引き換えに、長期的な資産形成の遅れや、結婚観のギャップを生む可能性もはらんでいます。木村さんのように「こんなはずではなかった」と将来の岐路で悩まないためにも、実家暮らしのメリットを享受しつつ、自立に向けた計画性を持つ視点が求められているといえるでしょう。

 

[参考資料]

株式会社キャリアデザインセンター/女の転職type『20代30代の4割が実家暮らし!理由は「お金がない」。6割が結婚相手に「一人暮らし経験」を求める/『女の転職type』が働く女性にアンケート』