(※写真はイメージです/PIXTA)
末期がんの夫が突きつけた「離婚届」
がんの闘病中だという中田明夫さん(65歳・仮名)。60歳で定年を迎えたのち、再雇用で嘱託社員として働いていましたが、月17万円の年金を受け取るようになり、「もう働かなくても暮らしていけるだろう」と仕事を辞めることにしたそうです。
しかし、懸念がひとつ。妻・和子さん(63歳・仮名)との生活だったとのこと。
自らを“昭和の男”というだけあり、現役時代は家族よりも仕事を優先してきました。そのような態度がいけなかったのでしょう、夫婦仲は良いとはいえず、冷めきっている、といっても言い過ぎではない状況でした。
退職を機に、夫婦2人きりの時間は増えます。それを思うと、正直、憂鬱。どのような態度で接したらいいのか、どのような会話をしたらいいのか、まったく思い浮かばなかったそうです。
しかし、そんなことは杞憂で終わります。健康診断に引っかかり、精密検査の結果、明夫さんに末期のがんの診断が下されました。
「医師から告げられた残された時間は、わずか1年でした」と明夫さんは振り返ります。
そして余命について和子さんに伝えると、第一声が「生命保険入っていたよね、(死亡保障は)いくらだったか……」と、まさか保険の話だったのです。
「私が死んだら妻が保険金を受け取ることになる……ものすごく嫌悪感を覚えました。ここではっきりと悟ったんです。随分前に私たちは終わっていたんだな、と。夫婦のまま人生終えるよりも、1人になって死んでいったほうが精神的に楽に思えました」
余命宣告を機に離婚を切り出した明夫さん。しっかりと財産分与を行い、明夫さんの手元には800万円ほどの現金と、月13万円の年金。余命1年を生きるのに、十分でした。
葬儀や墓についても段取りし、生命保険の受取人は1人息子に変えました。もう心残りはないそうです。
「離婚しても不思議なほど後悔はない。それよりも、なぜもっと早く別れなかったのか。早く別れていたら、お互いにもっと良い人生になっていたかもしれないですね」
結婚生活を振り返り、後悔はあるものの、今は晴れ晴れとしているとのことです。