80代の親と、定職に就かない50代の子が同居し、生活が立ち行かなくなる。こうした「8050問題」が、今や深刻な社会問題となっています。親が元気なうちは年金や貯蓄で生活が維持できても、親亡き後、子の生活基盤は失われてしまいます。当事者はどのように問題を解決を目指すのか。ある親子のケースをみていきます。
どうせ俺の金になるんだろ…働かない52歳息子の哀れな末路。〈年金月18万円〉〈貯金2,000万円〉、83歳父の「決死の覚悟」 (※写真はイメージです/PIXTA)

お恥ずかしい話ですが…83歳父の苦悩

寺本一郎さん(83歳・仮名)。都内の持ち家(一戸建て)で、長男の達也さん(52歳・仮名)と2人で暮らしています。一郎さんの収入は、国民年金と厚生年金を合わせて月約18万円。貯金は、退職金や長年勤め上げた給与から、約2,000万円を保有しているといいます。

 

「妻が亡くなって、もう10年になります。それ以来、息子との関係も、何というか……うまくいきません」

 

長男の達也さんは、大学を卒業後、数年間は都内の企業で働いていました。しかし、20代後半で「人間関係に疲れた」と退職。それ以来、定職に就くことはなく、不定期のアルバイトをする程度で、この20年以上、ほとんどの時間を自宅で過ごしている状態です。

 

生活費は、すべて一郎さんの年金と貯蓄から賄われています。達也さんが家事をするわけでもなく、食事も一郎さんが用意するか、達也さんがコンビニで買ってくるか。一郎さんが小言を言うと、達也さんは自室にこもってしまう。そんな日々が続いているそうです。

 

「若いころは、いつかまた働き出すだろうと。少し休めば大丈夫だろうと思っていました。それが、気づけば息子も50歳を過ぎてしまった」

 

一郎さん自身も80歳を過ぎ、体力的な衰えを感じています。自分がもし倒れたら、この家はどうなるのか。そして、息子はどうなってしまうのか。不安が募る一方で、達也さんの態度は変わらないといいます。

 

「先日、将来のことを少し話そうとしたんです。すると、『どうせ俺の金になるんだろ、心配なんてない』と。さすがに、言葉を失いました」

 

一郎さんは、自分が息子を甘やかし、駄目にしてしまったのではないか、という後悔の念に苛まれています。そして最近、ある決意を固めつつあると、声を潜めて語り始めました。

 

「今度、老人ホームに入る。この家は売って入居一時金はそれで賄う。入居期間がどれくらいになるかわからない、お金はほとんど残らない予定だ。獅子が子を崖から落とすようなもんだな。達也を自立させるのに、他に方法が思いつかなかった」

 

力ずくでも息子を自立させる。最後の大決断だといいます。