教師といえば、安定した仕事として、特に不景気下では人気の職業です。しかし、昨今はせっかく就いた安定の立場を自ら下りる教師も珍しくありません。教育現場では、限界を迎え、教壇を去る教員が増加しています。なぜ今、教員が追い詰められているのか。みていきましょう。
手取り月30万円・28歳女性教師、ある朝、職員室でみた「衝撃光景」に絶句。「教師、やめます」と決意 (※写真はイメージです/PIXTA)

増加する「心の病」、教員が直面する過酷な現実

「実際は学校によって、校長によってずいぶんと変わるみたいです。私が最後にいた学校でも、一昨年まではよかった。新しい校長は、教育委員会や保護者の顔色ばかりみていて。教師の負担が増したと思います」と田中さん。

 

とはいえ、教師の労働環境の過酷さは、多くの統計データによって裏付けられています。

 

文部科学省『令和4年度 教員勤務実態調査』によると、中学校教諭の1週間の在校等時間は平均で58時間43分に達しています。これは、国の定めた「時間外勤務の上限」である月45時間を大幅に超える教師が多数存在することを示しており、実際、中学校では約77.1%の教師がこの上限を超えていました。

 

こうした過重労働は、教師の心身に深刻な影響を及ぼしています。文部科学省『令和5年度 公立学校教職員の人事行政状況調査』では、精神疾患を理由とする病気休職者数が7,119人に上り、過去最多を更新しました。これは、病気休職者全体の75.6%を占めており、20代全教員の0.83%、30代の0.96%、40代の0.94%、50代以上の0.66%が、精神疾患による休職者となっています。

 

美咲さんが目の当たりにした「衝撃光景」は、長時間労働だけでなく、複雑化する生徒指導、過度な保護者対応、同僚間のサポート不足といった、現代の教師を取り巻く複合的な問題が凝縮された結果といえるでしょう。

 

「生徒のために」という教師の情熱や自己犠牲に依存し続ける現在の学校システムは、すでに限界を迎えています。教員一人ひとりが心身の健康を保ち、教育活動に専念できる環境をいかにして整備するか。業務の抜本的な削減、人員配置の適正化、そして教員を守るためのハラスメント対策の徹底など、社会全体で取り組むべき課題は山積みです。

 

[参考資料]

文部科学省『令和4年度 教員勤務実態調査』

文部科学省『令和5年度 公立学校教職員の人事行政状況調査』