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「手取り30万円」でも満たされない…28歳女性教師の苦悩
この春まで公立中学校で英語教師として働いていた田中美咲さん(28歳・仮名)。学年主任も任されるようになり、周囲からは順調なキャリアを歩んでいるように見られていたかもしれません。
「手取りは……30万円ほどありました。民間にいった同期と比べると、同程度か、少し多いくらい。恵まれているほうだと思います。また給与よりも『安定した職業で羨ましい』といわれることが多かったですね」
美咲さんの勤務実態は過酷を極めていました。平日は朝7時には出勤し、授業準備や生徒対応に追われます。吹奏楽部の指導も担当しており、生徒が下校した後も、会議や山のような事務作業が待っています。学校を出るのはいつも夜9時過ぎ。土日も部活動の大会引率や、平日に終わらなかった授業準備のために、どちらかは必ず出勤するのが常態化していました。
「自分の時間はまったくありませんでした。食事も不規則になり、常に体調が優れない。でも、休むわけにはいきません。教師不足で、穴埋めできるほど、余裕がないんです」
精神的な負担も大きかったと言います。生徒指導の難しさに加え、近年は保護者対応のプレッシャーが重くのしかかっていました。今どきの中学生はSNS利用が当たり前。教師からは見えないところで、生徒同士がトラブルになることも多く、介入するのもひと苦労でした。
「昔はよかった。問題ある生徒は、わかりやすかったから。今は一見すると優等生が、大きな問題を抱えていることも多く、明るみになったときには取り返しのつかないことになっている場合も」
重すぎる業務負担に加えて、これまでの知見が活かせない生徒対応の数々に、職員室の雰囲気はピりついていることも多いといいます。
「皆、疲弊していて、笑顔で雑談する余裕なんてない。それが当たり前の光景になっていたんです」
そんな日々のなか、ある朝、美咲さんは出勤して目にした光景に、言葉を失います。いつも厳格で、生徒からも信頼の厚かったベテランの男性教師(50代・仮名)が、職員室の自分のデスクに突っ伏していたのです。疲れが溜まって寝てしまったのか――そう思っていたといいますが、始業時間が近づいても起き上がる気配がない。心配になって声をかけ、肩を軽く揺さぶったんです。
「ハッとして起き上がったのですが、ボロボロと泣いていて。『もうダメだ、もうダメだ』と。その日は帰られて、そのまま休職してしまいました」
誰よりも熱心で、タフだと思っていたベテランの先生ですら壊れてしまう――「この職場は異常だと思って、決意しました」と、美咲さんは学年主任に辞意を伝えました。引き止められましたが、決意は揺らがなかったといいます。
「教職は尊い仕事だという思いは、今もあります。しかし、明日は我が身、という環境ではとても続けられません。生徒には、本当に悪いと思いましたが」