核家族化や共働き世帯の増加、そして高騰する不動産価格などを背景に、「二世帯住宅」が再び注目されています。かつての完全分離型ではなく、LDKなどを共有しつつプライバシーも確保する、緩やかな同居スタイルが人気のようです。昭和の時代とは異なり、親世帯と子世帯が対等な立場で、互いのメリットを享受し合おうという意識が強まっているようです。しかし、その理想とは裏腹に、二世帯同居が家族関係を修復不可能なまでに破壊してしまうケースも少なくありません。
残ったのはデカすぎる“因縁の家”…「マイホームの援助」「子育ての協力」に飛びついた、世帯年収1,020万円・40代共働き夫婦の愚行。二世帯同居破綻の発端は〈義父の定年退職〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

定年退職してヒマになった義父

65歳で定年退職した義父。仕事一筋だったためか、これといった趣味もなく、友人も少ない様子。毎日テレビをみて過ごすようになり、次第に義母におせっかいを焼くようになります。家事のやり方に対し、「要領が悪すぎる」「テレビでみたこういう裏技を使え」などと口を出し、夫婦喧嘩が絶えなくなりました。

 

やがて、義父の矛先は孫のサクラさんにも向きはじめます。「俺が勉強をみてやる」そう宣言すると、平日の夕方や土日は、まるで家庭教師のように勉強に付きっきりになりました。勉強のタイムスケジュールを細かく組み、サクラさんが友達と遊びにいって、帰りが少しでも遅れると車で探し回る始末です。

 

しかし、義父の熱心な指導とは裏腹に、サクラさんの成績は伸び悩みます。すると義父は、「俺に恥をかかせるのか」「親と違って出来が悪い」などと、孫を叱責するように。

 

孫の変化と、崩壊する家族関係

異変に気づいたのはカンナさんでした。以前は明るかったサクラさんの口数が少なくなり、部屋に閉じこもりがちになっている――。義父の前では萎縮し、怯えた様子をみせることもありました。

 

カンナさんがマサトさんに相談しても、「父さんも、サクラのためを思ってやってくれているんだよ」とかばうばかり。こちらの夫婦にも溝が生まれていきます。

 

ある夜、サクラさんが「おじいちゃんがこわい。家にいるのがつらい」と涙ながらに訴えてきました。カンナさんは、事態の深刻さをようやく理解します。これは「教育」ではなく「虐待」に近いのではないか、と。

 

カンナさんは義父と話し合いの場を持ちましたが、義父は「忙しい親の代わりを担ってやっているだけだ」「あいつは甘えている」と、自らの言動を省みる様子はまったくありません。

「離婚もやむを得ません」家を出る決断

「このままでは、取り返しのつかないことになる」

 

カンナさんは、娘を守るために家を出ることを決意します。しかし、夫のマサトさんは「親を置いていけない」と、同居解消に強く反対しました。

 

「それなら、離婚もやむを得ません」

 

カンナさんの固い決意と、憔悴しきった息子の姿を目の当たりにし、マサトさんも事の重大さに気づいたようです。

 

「わかった。一緒に出よう。サクラを守ることが一番だ」

狭いアパートでの再出発と、残された“負の遺産”

3人は、家から車で30分ほどの場所にある、狭い賃貸アパートで新しい生活を始めました。サクラさんは転校先の学校に馴染み、少しずつ元気を取り戻しています。

 

しかし、家族の平穏を取り戻した代償は大きなものでした。二世帯住宅のペアローンの返済は、家を出たあとも当然続きます。アパートの家賃と合わせると、家計は苦しくなりました。

 

現在、夫婦は二世帯住宅を売却しようと、義父母と話し合いを続けています。援助してくれた1,000万円を返すから別の住む場所を探してほしいと説得しても、「恩を仇で返すのか」「私たちの住む家がなくなる」と義父母は猛反発。義父母の年金収入は夫婦合わせて月額25万円ほどで、決して裕福ではありませんが、退職金と貯蓄を切り崩しての援助だったこともあり、感情も相まって関係性はどんどんこじれていきます。

 

さらにもう一つ問題が。たとえ義父母を退去させられたとしても、地方にある特殊な間取りの二世帯住宅に買い手がつく保証はどこにもありません。

 

ローンの返済と、解決のみえない義父母との対立。マサトさんとカンナさんは、精神的にも経済的にも疲労困憊しています。それでも、離婚という最悪の事態は避けられました。

 

「すべてが愚かな選択でした。金銭援助をあてにしたことも、ペアローンを組んだことも。なにより、娘を追い詰めてしまったことも……。ですが、いまは苦しいけれど、家族3人で一緒にいられる。いつか必ず立て直そう」夫婦は互いを支え合い、前を向こうとしています。