「繰下げ受給にすれば年金が増える」──そんな言葉を信じて安心してはいけません。年金制度は一見シンプルに見えて、実際には数多くの条件と例外が絡み合う複雑な仕組みです。思い込みのまま手続きを進めると、想定外の落とし穴に直面することもあるのです。
繰り下げれば年金は増えるって言ったよね!69歳女性「月17万円」もらえるはずが、年金事務所で知る「本当の年金額」に撃沈 (※写真はイメージです/PIXTA)

繰下げの増額分は遺族年金に反映されない! 知っておくべき年金制度の基本

繰り下げ受給とは、老齢年金(老齢基礎年金および老齢厚生年金)を本来の受給開始年齢(原則65歳)よりも遅らせて受け取り始める制度です。これにより、年金を受け取り始める年齢に応じて、年金額が一生涯にわたって増額されます。

 

受給を1カ月遅らせるごとに、年金額が0.7%増額されます。71歳まで繰り下げれば増額率は50.4%。女性の言っていた「1.5倍」というのはここからきているのでしょう。

 

年金の繰下げ受給は、受取額を増やしたいと考えている人には適した制度ですが、注意点がいくつかあります。そのひとつが、繰下げ中に亡くなった場合のこと。もし71歳で亡くなった場合、遺族は増額された年金額を基準に遺族年金が計算されると考えるでしょう。しかし実際は職員が説明していた通り、遺族年金は増額される前の金額を基準として計算されます。つまり65歳時点で受け取るはずだった年金額が基準になります。

 

そして遺族年金についても、女性の理解には齟齬がありました。「遺族年金=亡くなった人の年金の4分の3」というような話が広く知られていますが、正しくは「遺族厚生年金=亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3」。つまり、月15万円から老齢基礎年金(令和7年4月~満額月額69,108円)を引いた金額に4分の3がおおよの金額=月6万円、になるというわけです。

 

なんとも複雑な年金制度。

 

さらに受け取る遺族が老齢厚生年金を受け取れる場合は、さらに複雑。基本的に老齢厚生年金は全額支給。遺族厚生年金はその差額分が支給されます。仮に女性が老齢厚生年金を月5万円受け取っていたとすると、遺族厚生年金の給付額は〈6万円-5万円=1万円〉となるわけです。

 

また繰下げ待機中に亡くなった場合で、遺族からの未支給年金の請求が可能な場合は、65歳時点の年金額で決定したうえで、過去分の年金額が一括して未支給年金として受け取ることができます。 ただし、請求した時点から5年以上前の年金は時効により受け取れなくなります。つまり女性は1年繰り下げて8.4%増額された年金5年分を一括で受け取れるかもしれないのです。

 

「私も65歳になったら年金を受け取るつもりですが……ちゃんと制度を理解していないと、足元をすくわれますね」

 

[参考資料]

日本年金機構「年金の繰下げ受給」、「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」