「繰下げ受給にすれば年金が増える」──そんな言葉を信じて安心してはいけません。年金制度は一見シンプルに見えて、実際には数多くの条件と例外が絡み合う複雑な仕組みです。思い込みのまま手続きを進めると、想定外の落とし穴に直面することもあるのです。
繰り下げれば年金は増えるって言ったよね!69歳女性「月17万円」もらえるはずが、年金事務所で知る「本当の年金額」に撃沈 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金事務所で知った「月6万円」の衝撃

年金事務所の相談ブースで、周囲の空気が一瞬にして凍りつくような出来事がありました。目撃したのは、たまたま親族の年金相談に同行していたという田中雄二さん(62歳・仮名)。田中さんの視線の先には、職員を前にして苛立ちを隠せない女性と、青ざめた表情でたたずむ男性がいました。

 

「繰り下げ受給をしたら、年金は増えるって言ったじゃないですか!」

 

田中さんは聞き耳を立てていたつもりはないといいますが、あまりに声が大きく、事のすべてがまるわかりだったといいます。女性は69歳で、隣にいた男性は女性に付き添ってきていた親戚。女性の夫が71歳で亡くなり、遺族年金の手続きで年金事務所に来ていたようです。女性の主張をまとめると、以下の通り。

 

・夫は年金の繰下げ中の71歳で亡くなった

・65歳で年金を受け取っていれば月15万円ほどだった。71歳まで繰り下げていれば1.5倍になっていたはず

・遺族年金は亡くなった人の年金の4分の3を受け取れると聞いている

・つまり15万円の1.5倍、その4分の3、月約17万円は受け取れるはずだ

・それなのに、私が受け取れるだろう遺族年金は「月6万円」ほど……ってどういうことだ

 

「確かに、月17万円受け取れると思っていたのに、月6万円しか受け取れないといわれたら、『どう生きていけというのだ!』と怒りたくなるのも無理はないですよね。しかも女性は興奮しながらも、すらすらと主張していましたから、ある程度、年金制度のことを調べていたんじゃないかな」

 

そんな状況下、職員はすこし焦っている様子ではあったものの、しっかりと説明をしていたといいます。

 

・繰り下げ受給をしている場合、老齢年金は増額支給されますが、遺族年金は増額される前の金額を基準として計算される

・遺族年金には大きく遺族基礎年金と遺族厚生年金があるが、今回対象となるのは遺族厚生年金で、年金額は原則、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4の金額

 

道筋を立てて説明していたものの、田中さんにはちんぷんかんぷんだったといいます。