東京と地方の経済格差は、大きな開きがあります。厚生労働省の調査によれば、平均年収が最も高い東京都と、最も低い県との差額は約223万円。これは生涯換算すると、実に8,000万円以上の格差となり得ます。しかし、その一方で、「都道府県魅力度ランキング」では、年収が低いとされる県が上位にランクインすることも珍しくありません。満員電車や競争社会といった都会の喧騒から離れ、「自然豊かな環境で、のんびりと」といった理想を抱き、地方へのUターン移住を検討する人が増えています。実情をみていきましょう。
満員電車、社畜生活からの解放…東京在住・世帯年収1,320万円だった30代夫婦、「地方移住」でのびのび快適な生活のはずが、待っていたのは「銀行からの残酷な宣告」 (※写真はイメージです/PIXTA)

銀行のローン審査で突きつけられた、衝撃の未来

住宅メーカーの営業担当者からも「問題なくローンを組めるでしょう」と太鼓判を押され、地元の銀行へ住宅ローンの相談に訪れました。

 

源泉徴収票や物件資料を提示するナオキさん。応対した融資担当者からは後日、融資審査結果を伝える旨を告げられ、その日は帰宅します。

 

夫妻はすっかり安心し、夢のマイホームのことで頭がいっぱいに。しかし数週間後、担当者からかかってきた電話の内容は、信じられないものでした。

 

「申し訳ありません。審査部のほうで、融資の承認が下りませんでした」

 

驚くナオキさん。理由を聞いても「総合的判断で」とのことで、詳細を聞くことはできません。納得できず、住宅メーカーに相談へ行きました。そこで指摘されたのは下記の2点。

 

・転職直後で勤続年数がリセットされている

・収入が大幅に減少しているが、それにもかかわらず貯蓄が少ない

 

多くの金融機関では、住宅ローンの審査基準として「勤続1年以上(場合によっては3年以上)」を設けています。ナオキさん夫婦は、宮崎にUターン転職してからまだ1年未満。東京での勤務実績は考慮されず、機械的な審査基準によって「安定した収入が継続しているとは判断できない」とみなされた可能性があります。

 

また、ナオキさん夫妻は、東京で世帯年収1,000万円を超えていたにもかかわらず、現在の貯蓄額が300万円です。この場合、家計の収支構造に問題がある可能性が高く、その状態で新たに4,500万円のローンを組むのは、将来の教育費や不測の事態を考慮すると、リスクが高すぎると判断された可能性があります。

 

Uターン移住という大きな決断が、思わぬ形でマイホーム計画の足枷となってしまった瞬間でした。

理想の取捨選択

ローンが組めないという事実に、夫妻は愕然とします。そして、これを機に自分たちの将来計画を冷静にみつめ直した結果、たとえローンが組めたとしても、その後の生活が極めて厳しいものになることに気づきました。

 

「物価が安い」というのは、あくまで家賃や土地といった一部に限った話であり、光熱費等は東京と大差ありません。また、地方では車が必須なため、維持費が新たな負担としてのしかかります。子どもが県外の大学に進学する場合、仕送りの負担は遥かに重くなるでしょう。そしてなにより、世帯年収が4割近く下がっているにもかかわらず、将来的なキャッシュフローを意識できていなかった点が問題です。

 

審査に落ちたことで、夫婦はすべての希望を叶えることは不可能という現実に直面。そして、子どもの教育、住宅、趣味……どれを優先し、どれを諦めるのか、辛い取捨選択を迫られました。