(※写真はイメージです/PIXTA)
当初は理想の環境。多彩な経歴を持つ人々との交流
元地方公務員の鈴木徹さん(72歳・仮名)。築40年を超えた自宅。このまま住み続けるためにリフォームを行うか、それとも住み替えるか。鈴木さんが選んだのは、自立していること(健康であること)が入居条件である、自立型老人ホームへの入居でした。入居一時金は1,000万円超という高級施設。ホテルを思わせるラウンジ等、共用施設の素晴らしさが入居の決め手でした。
「妻に先立たれ、一人暮らしの将来を考えたとき、充実したサービスと他者との交流の場があるホームが最良の選択だと思いました。入居者には企業の元経営者や医師といった方が多く、様々な経歴を持つ方々との交流は知的好奇心を刺激され、当初は非常に充実していました」
趣味の囲碁を通じてすぐに仲間もでき、鈴木さんのセカンドライフは順風満帆に始まったかのように見えました。しかし、入居から半年が過ぎた頃、鈴木さんは仲間たちとの会話に、ある種の違和感を覚え始めます。それは、入居者間の職歴の違いから生じる、見えない壁の存在でした。
「会話の端々で、特に民間企業の経営者だった方などから『公務員は安定していて楽だったでしょう』といった趣旨の発言がありました。もちろん、彼らに悪気はないのでしょう。しかし、40年以上、自分なりに住民のために尽くしてきた自負があります。そのキャリアを単純化され、軽んじられているようで、複雑な心境でした」
表面上は良好な関係が続いていたものの、鈴木さんが退去を決意する決定的な出来事が起こります。それは、いつものように囲碁仲間とラウンジで楽しんだ後のことでした。