かつて成功の象徴とされたタワーマンションでの暮らしが、今、思わぬ形で家計を圧迫するケースが増えています。その元凶は、終わりの見えない物価高騰、すなわち「インフレ」です。現役時代には想像もしなかった支出増が、穏やかなはずの老後に重くのしかかります。
〈年収1,500万円〉〈退職金3,500万円〉の勝ち組でも…湾岸タワマン暮らしを襲う「インフレ地獄」。〈年金月32万円〉の老後資金が溶ける、68歳の絶望 (※写真はイメージです/PIXTA)

「老後資金が溶ける」恐怖から逃れるための最終手段

今、多くのマンション、特に管理体制が充実しているタワーマンションほど、物価・人件費・資材費の高騰という形で維持コストが上昇し続けています。

 

●管理費の高騰要因: 電気代、清掃・警備などの外部委託費の上昇

●修繕積立金の値上げ要因: 建設資材、職人の人件費の世界的な高騰

 

これらは個人の節約努力ではどうにもならない、コントロール不能な支出です。現役時代は問題なくとも、収入が年金のみなど限られるなか、家計を圧迫する最大の要因へと変貌するリスクをはらんでいます。事実、国土交通省『令和5年度マンション総合調査』によると、長期修繕計画で想定する費用に比べて実際の修繕積立金積立額が「不足する」と回答した管理組合は36%。1割強が「20%以上の不足」と回答しています。多くのマンションが将来的な値上げリスクを抱えている実態がうかがえます。

 

このコントロール不能なリスクから逃れ、穏やかな老後を送るための有効な一手、それが「住み替え」です。

 

現在の住まいを売却することで、高騰し続ける管理費・修繕積立金から解放されます。さらに、売却によってまとまった現金が手元に入り、老後資金に余裕が生まれる可能性もあります。夫婦二人の生活に合わせたコンパクトな住まいに移ることで、光熱費や固定資産税といった日々のランニングコストも圧縮できるでしょう。掃除などの身体的な負担が減るのも大きな利点です。

 

住み替えを成功させるためのポイントは、決断は「元気なうち」にすることです。内閣府『令和6年度高齢社会白書』によると、高齢者の住み替え意向は検討層含め、60代前半で4割。年齢とともに減少し、70代前半で3割、80代前半で2割となります。

 

住み替えには、情報収集、家の片付け、契約手続きなど、想像以上に体力と気力、そして判断力が必要です。「まだ大丈夫」と先延ばしにしているうちに、体調を崩して動けなくなってしまうケースは少なくありません。年齢とともに住み替え意向が減少するのは「住み替えを諦め、納得のいかない環境に甘んじている」とも考えられるのです。

 

高層階からの絶景も、家計を圧迫するようでは心から楽しむことはできません。

 

「大好きなんです。この30階からの眺め。一生、見られたらと思っていましたが、もう、潮時なんでしょうね……」

 

[参考資料]

国土交通省『令和5年度マンション総合調査』

内閣府『令和6年度高齢社会白書』