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家出の引き金は、会社での成功体験
なぜ、32歳になった今、彼は行動を起こしたのでしょうか。置き手紙だけでは見えてこない、家出の直接的なきっかけがありました。実は家出の数週間前、拓也さんは会社で大きなプロジェクトを成功させ、社内でも高い評価を受けていたといいます。ですが、その成功こそが、彼の心に暗い影を落としていました。
「手紙には、その時の心境も書かれていました。『大きな仕事をやり遂げたのに、まったく心が満たされなかった。他人のための人生を歩んでいると、はっきりと感じてしまった』と。皮肉なことに、会社での成功が、彼に自分の人生を見つめ直させ、家を出る決意を固めさせたようです」
親の期待に応え、社会的な成功を収める。そのレールの上を走り続けた結果、拓也さんは自分の心の空虚さに気づいてしまったというのです
「子どもには苦労をしてほしくない。その一心で、息子にすべてを捧げてきました。それがまさか、あの子を縛り付けていたなんて……」
株式会社マイナビ『2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査』によると、子どもの就職先に求めるものとし「経営が安定している」が最多(54.1%)で、前年より5.5ポイントアップ。「給与や賞与が高い」(14.4%)も前年から2.3ポイントの増加。さらに子どもに働いてほしい就職先ではトップが「公務員」で、「トヨタ自動車」や「NTT」、「伊藤忠商事」といった大企業が並びます。経済的な不安から、子どもの将来に対して、より一層安定志向になっていることがわかります。
また子どもの内定企業から受けた連絡として最も多かったのは「内定確認の連絡」で45.2%。「内定式・入社式への招待」は17.6%で、そのうち子どもの内定企業の内定式に「実際に参加した」という保護者は39.2%、入社式に「参加予定」という保護者は41.9%。人材不足がいわれているなか、学生だけでなく保護者にも好印象を残すことが必須となっているなか、多くの家庭で、親が子の人生の岐路に関わっていることをうかがうことができます。しかし、親の期待が大きすぎるとき、それは子の本心に蓋をする圧力にもなるのかもしれません。
手紙は、こう結ばれていました。
・32歳にもなって、こんな形で家を出るのは本当に情けない
・しかし、一度きりの人生、これからは自分のために生きてみたい
・落ち着いたら連絡をするから心配をしないでほしい
用意周到に準備を進めていたらしく、会社はすでに退職。同僚も詳しくは聞いていないといいます。
「当初は怒りもありました。しかし、あの子がどれだけ悩んだ伝わってきました。今はもう、信じて待つしかありません」
父親68歳、母親65歳、息子32歳。遅すぎた「親離れ/子離れ」でしたが、これは鈴木さん一家にとって新しい関係を築くための第一歩なのかもしれません。
[参考資料]