親が願う子の「安定した将来」と、本人が望む「自分らしい生き方」。その理想がすれ違うとき、家族の間に静かな亀裂が生じることがあります。順風満帆なエリート人生を歩んでいたはずの一人息子。彼の突然の決断は、現代社会に生きる多くの親子にとって、決して他人事ではない問題を投げかけています。
ごめん、もう、実家にはいられない…〈月収55万円〉32歳長男が突然の家出。〈年金月26万円〉60代の両親が目にした置き手紙の衝撃内容 (※写真はイメージです/PIXTA)

エリート街道を歩んだ「自慢の息子」の苦悩

東京都内の閑静な住宅街。元大手銀行員の鈴木正雄さん(68歳・仮名)と妻の良子さん(65歳・仮名)は、月26万円ほどの年金を受け取りながら、穏やかなセカンドライフを送っていました。夫婦の自慢は、大手商社に勤務する一人息子の拓也さん(32歳・仮名)です。

 

その日の朝も、いつもと変わらない光景のはずでした。しかし、食卓に拓也さんの姿がありません。

 

「毎朝顔を合わせるのがあの子の習慣でしたから。胸騒ぎがして、部屋を見に行ったんです」

 

良子さんがそっとドアを開けると、きれいに整えられたベッドはもぬけの殻でした。部屋の学習机の上に、一通の封筒が置かれていたのです。『父さん、母さんへ』と書かれた、見慣れた息子の文字。震える手で封を開けた良子さんの目に、信じがたい言葉が飛び込んできました。

 

「『ごめん、もう、ここにいられない』と書いてあって……頭が真っ白になりました。すぐにリビングで新聞を読んでいた夫のもとへ駆け寄りました」

 

拓也さんは自慢の息子でした。幼い頃から成績は常にトップクラスで、名門私立中学から有名大学、そして誰もが知る一流企業へと進みました。月収は32歳にして55万円を超え、経済的に何1つ不自由のない暮らしを送っています。反抗期らしい反抗期もなく、素直で真面目な息子だったのです。

 

「何かの冗談だろうと。仕事で疲れているだけじゃないのかと、最初は信じられませんでした。しかし、手紙を読み進めるうちに、私たちがまったく知らなかった息子の顔が浮かび上がってきたのです」と正雄さんは話します。

 

手紙には、これまでひた隠しにしてきた拓也さんの本音が、切々と綴られていました。

・親の期待に応えることがすべてだった

 

・褒められるのが嬉しくて、必死に勉強した

・しかし自分にはずっとやりたいことがあった。ずっとデザインの勉強がしたかった

・安定を捨てて、不安定な道に進むことを、親が認めるはずがないと分かっていたし、がっかりさせたくなかった