(※写真はイメージです/PIXTA)
35歳娘の涙の告白…「借金の理由」
しばらく嗚咽が続いた後、美咲さんはぽつり、ぽつりと事情を話し始めました。その内容は、両親の想像をはるかに超えるものだったのです。
借金の理由は、ギャンブルや浪費ではありませんでした。数年前から交際し、結婚の約束もしていたという恋人の存在。彼が立ち上げた事業がうまくいかず、資金繰りに窮した際に「君しか頼れない」と懇願され、美咲さんは彼の事業資金のために複数の消費者金融から借金をしてしまったというのです。
「最初はすぐに返すって言ってたの。でも、事業はどんどん傾いて……」
彼のために個人で借り入れた多額の借金が雪だるま式に膨らんで、もはや自力での返済は不可能な状態に陥っていたのです。娘の口から語られた衝撃の事実に、一郎さんは怒りの矛先を失い、ただ唇をかむことしかできませんでした。
金融庁等資料『多重債務者対策をめぐる現状及び施策の動向』によると、貸金業者からの借入残高や多重債務者数は、法改正後に大きく減少しましたが、近年は120万~140万人程度と横ばいで推移しています。借入れの主な理由は依然として「生活費の不足を補うため」が最も多く、「商品・サービス購入」が続きます。また「事業資金の補てん」や「他人の債務保証・借金の肩代わり」による多重債務も。さらに財務局や地方自治体への相談件数は増加傾向にあります。
美咲さんのように、親しい間柄だからこそ断り切れず、安易に借金を重ね、多重債務者になってしまう――決して珍しいことではありません。
徐々に冷静さを取り戻した一郎さんは、「相談してくれて、よかったと思いました」と語ります。前述の資料によると、多重債務を原因とする自殺者は年間700人以上報告されています。もし娘が誰にも頼れず、一人で思い詰めていたら……最悪の結末を迎えていた可能性もゼロではなかったのです。
300万円という金額は、収入が年金だけの鈴木さん夫婦にとって大きなものです。それでも美咲さんが作った借金を肩代わりすることにしたといいます。
[参考資料]
金融庁等資料『多重債務者対策をめぐる現状及び施策の動向』