(※写真はイメージです/PIXTA)
穏やかな日々を急転させた「娘のひと言」
都心から電車で1時間ほどの郊外で暮らす、鈴木一郎さん(68歳・仮名)と良子さん(65歳・仮名)夫婦。一郎さんが65歳で完全に仕事を引退して3年が経ちます。
現役時代は中堅の食品メーカーを勤め上げた一郎さん。退職金で住宅ローンも完済し、ようやく肩の荷が下りました。現在の収入は、夫婦2人分の年金を合わせて月におよそ24万円。贅沢はできませんが、趣味の家庭菜園で採れた野菜を食卓に並べたり、たまに近所の友人とグラウンドゴルフに出かけたりと、そんな穏やかな毎日を送っていました。
しかし、その平穏な日々は、夏の終わりのある週末に急転します。都内で一人暮らしをする次女の美咲さん(35歳・仮名)から、「大事な話がある」と、改まった様子の連絡があり、実家へ帰省することになりました。
「『大事な話』なんて言うものですから、てっきり結婚の報告かと期待してしまって。もうそんな歳ですし、どんなお相手を連れてくるのかしらと、胸を膨ませていました」と良子さん。口では「そうか、あいつもやっとか」とぶっきらぼうに言いながらも、一郎さんもまた、娘の吉報を心待ちにしていたといいます。
しかし、駅まで迎えに行った2人は、すぐに娘の異変に気づきました。いつものように笑顔で手を振る美咲さんでしたが、その表情はどこか力なく、目の下にはうっすらと隈が浮かんでいたのです。
食卓には、良子さんお手製の料理が並び、思い出話に花が咲きます。一見、いつもと変わらない家族団らんの風景。ですが、美咲さんの口数は明らかに少なく、上の空でした。食事が終わり、リビングで寛いでいた時、美咲さんは意を決したようにテレビを消し、両親の前に正座しました。ただならぬ雰囲気に、一郎さんと良子さんは息をのみました。
「パパ、ママ、お願いがあるの……」
娘の口から次に発せられたのは、夫婦にとってあまりにも想定外の言葉でした。
「本当にごめんなさい……お金を、300万円、貸してほしいの」
その一言に、リビングの空気は凍りつきました。
「どういうことだ。何に使ったんだ。まさか、変な男に貢いだんじゃないだろうな。それとも……サラ金か?」
矢継ぎ早に問い詰める一郎さんに、美咲さんはただ「ごめんなさい」と泣きじゃくるばかりで、要領を得ません。