(※写真はイメージです/PIXTA)
脳梗塞の治療にかかった費用
気持ちが少し落ち着くと、次に頭をよぎったのはお金の問題です。入院とリハビリには、一体どれくらいの費用がかかるのでしょうか。
高額療養費制度を利用することで医療費の自己負担には上限が設けられますが、その上限額は収入によって決まります。半場さんの場合、自己負担上限額は月額約25万円です。しかし、自己負担は医療費だけではありません。差額ベッド代や食事代、衣類や日用品のレンタル費などは別途必要になります。
まず、3週間の脳神経外科でかかった費用は下記のとおり。
・医療費自己負担(上限適用):約25万5,000円
・差額ベッド代、食事代、日用品費など:約21万5,000円
合計:約47万円
その後、リハビリテーション病院に移り、2ヵ月入院しながら治療しました。
・医療費自己負担(上限適用):約25万円 × 2ヵ月 = 約50万円
・食事代、日用品費など:約16万4,000円
合計:約58万4,000円
総合計金額は約113万4,000円です。
資産は1,500万円…それでも「お金が足りない」本当の理由
入院から数週間後、半場さんはお見舞いに来た母親に、どうしても切り出さなければならない話がありました。何度もためらい、言葉に詰まりながら、彼は窮状を訴えます。
「母さん、ごめん……。情けないんだけど、お金が足りないんだ」
資産が1,500万円もあるのになぜ――。その理由は、半場さんのお金の管理方法にありました。
給与が振り込まれる普通預金口座の残高は80万円ほど。しかし、そこから毎月、マンションの家賃、光熱費、母親の施設費用など、約40万円が自動で引き落とされます。さらに、給与の大部分はNISAやiDeCoといった投資口座へ自動的に移される設定になっていました。
資産1,500万円の内訳は、すぐに引き出せないiDeCoや、解約にペナルティがある定期預金、そして大半を占める国内外の株式・投資信託でした。これらの金融資産は、本来ネット証券などを使えば数日で現金化できます。しかし、病気で心身ともに万全でない状態の本人でなければ、複雑な売却手続きは困難です。コンプライアンス上、家族であっても代行はできません。入院費の支払いや、当面の生活費、母親の施設費用を考えると、普通預金の残高はあっという間に底をつきます。
加えて、半場さんは独身であることと、健康診断の結果がよいという自負から、民間の保険には未加入の状態でした。健康保険から、給与のおおよそ3分の2が最長で通算1年6ヵ月にわたり支給される「傷病手当金」もありますが、民間の保険も含め、こうしたもしもの際の給付金は自動的に支払われるわけではなく、本人が書類を揃えて申請しなくてはなりません。また、申請から振り込みまでには時間がかかります。当座の支払いに間に合わないケースも想定しておく必要があるでしょう。
半場さんは、資産は十分にあるのに、すぐに使える現金がない「キャッシュフロー危機」に陥ってしまったのです。本来自分が支えるべき母に、頭を下げるしかありませんでした。