「年収1000万円も可能」の言葉に舞い上がった自分を殴りたい
「こんなはずじゃなかった……」
田中誠一さん(42歳・仮名)。中堅メーカーの営業として20年以上勤め、年収は600万円。安定した生活に大きな不満はなかったものの、大企業に就職した大学同期と比べて見劣りする給与に、心のどこかで「このままでいいのか」という焦りを感じていたといいます。
「上には上がいる、比べること自体、意味がない……そう思っていたものの、どうしても比べてしまう自分がいました」
そんな時、スマートフォンで眺めていた転職サイトで、あるITベンチャー企業の求人が目に留まりました。
「急成長中!」
「成果は正当に評価!」
「インセンティブ制度充実、未経験者でも年収1000万円超も可能」
魅力的な言葉とサイトに掲載された笑顔のスタッフに、田中さんは「何となくピンときた」といい、「ここなら年収も大きく上げられる」と確信したといいます。
妻は「40代で転職なんて……」と心配しましたが、田中さんは「これはチャンスなんだ」と、半ば強引に説得して求人に応募。見事内定を獲得し、長年勤めた会社を去る決意を固めたのです。
しかし、転職先で田中さんを待っていたのは、あまりにも厳しい現実でした。「年収1000万円超え」を可能にするというインセンティブ制度。その実態は、到底達成できないような高い営業ノルマが前提となっていました。課せられた目標を達成している社員は、社内でもごく一握りのトップセールスのみ。さらに追い打ちをかけたのが、扱っている商材の競争力の低さでした。市場には似たようなサービスが溢れており、価格も性能も他社と違いはありません。前職で培った営業スキルを活かそうにも、根本的な商品力の前ではなすすべがありませんでした。
結果、インセンティブはまったくつかず、田中さんの給与は基本給のみ。年収にして300万円と半減するレベルです。このままでは家計が耐えきれず、中学受験を目指していた息子の塾費用も払うこともできません。
「だから言ったじゃない……」。妻からのため息まじりのひと言が、田中さんの心を深くえぐります。結局、年収1000万円超えは諦め、再び転職。何とか内定を勝ち取ったものの、前々職から微妙に給与減。「転職なんてしなければよかった。転職を甘く見た、自分を殴ってやりたい」と、後悔の言葉しか出てこないといいます。