(※写真はイメージです/PIXTA)
「元看護師だから」の一言で始まった8年間の地獄
中野美智子さん(56歳・仮名)は、8年間の歳月を「まるで暗いトンネルの中にいたようです」と振り返ります。その表情には、深い疲労の色が浮かんでいました。
「義父が自宅で倒れ、要介護3の認定を受けたのがすべての始まりでした」
美智子さんの夫・浩一さん(58歳・仮名)には、近隣に住む姉・聡子さん(62歳・仮名)がいます。家族会議の場で、聡子さんは悪びれもなくこう言ったといいます。
「美智子さんは元看護師だから、お義父さんのことも一番よくわかるでしょ? 専門家が身内にいるんだから安心ね。私たち素人では何もできないから、お願いするわ」
夫も「確かに。そのほうが父さんも安心だ」と同調し、美智子さんに拒否権はありませんでした。義父の年金は月7万円ほど。その大半は医療費と介護用品に消え、生活費はわずかな貯蓄を取り崩して賄っていました。経済事情を鑑みると、施設への入居は現実的ではない、という事情も。こうして美智子さんは24時間365日、義父の在宅介護にあたるようになり、自由な時間や社会との繋がりを失うことになったのです。
実際に介護の現場を担うのは、圧倒的に女性が多いのが現状です。厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』によると、主な介護者のうち女性は同居の場合は68.9%、別居の場合は71.1%を占めています。事情はそれぞれ異なるものの、美智子さんのように「介護を押し付けられる」ケースも珍しくありません。
「昼夜を問わないトイレの介助や薬の管理、だんだんと認知症が進み暴言を吐かれることも……心がすり減っていくのが自分でもわかりました。その間、義姉はたまに顔を出すだけ。『さすがプロね』と口先だけで一度も手伝うことはありませんでした」
美智子さんの8年間は、まさに孤軍奮闘だったのです。