(※写真はイメージです/PIXTA)
感謝を信じて耐えた日々…その果てに待っていた仕打ち
長い闘病の末、義父が息を引き取ったとき、美智子さんは悲しみとともに、わずかな安堵を感じたといいます。「できる限りのことはした」と自分に言い聞かせ、葬儀の準備を進めました。
問題が起こったのは、親族が集まった葬儀後のお斎の席でのことでした。 思い出話に花が咲き、場の雰囲気も和やかになってきた頃、喪主の隣で涙を拭っていた義姉の聡子さんが、ふと美智子さんのほうを向き、親戚中に聞こえるような声で言ったのです。
「でも、美智子さんが元看護師として、もっと早くお父さんの異変に気づいてあげていれば、もう少し長く生きられたのかもしれないわね」
その瞬間、会場のざわめきが止まりました。 8年間の献身、寝る間も惜しんで続けた介護、失ったすべて。それがたった一言で無価値なものとして断罪されたのです。感謝の言葉を期待していたわけではない。しかし、まさか責任を追及されるとは夢にも思っていませんでした。美智子さんは、何かを言い返そうと口を開きかけましたが、言葉になりません。ただ、目の前が真っ白になり、全身の力が抜けていくのを感じました。
前出の厚生労働省の調査によると、主な介護者の69.2%が「悩みやストレスあり」と回答し、そのうち79.6%が「家族の病気や介護」と、介護そのものに負担を感じています。さらに「自分の病気や介護」や「収入・家計・借金等」とともに、「家族との人間関係」も5人に1人程度が悩み・ストレスだと回答しています。
介護は家族という閉鎖的な空間で行われがち。そのようななか、本来は支えあう存在であるはずの家族との関係が悪化し、肉体的な負担以上に、精神的な孤立や周囲の無理解が介護者を追い詰めていることも珍しくありません。
美智子さんを最も苦しめたのは、介護そのものの過酷さ以上に、「専門家だから当たり前」という周囲の期待と理不尽さでした。「介護は家族がするもの」という価値観が根強いなか、誰か一人の自己犠牲に頼るケースが後を絶ちません。
[参考資料]
厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』