残された家族の生活を支える大切な「遺族年金」。しかし、その受給資格を失う条件について、どれだけ正しく理解しているでしょうか。良かれと思って始めた新しい生活が、思わぬ落とし穴になることも。「知らなかった」では済まされない、遺族年金の仕組みについて見ていきます。
そんなの聞いていません!75歳女性〈月7万5,000円の遺族年金〉打ち切りの悲劇。さらに「過去分も全額返金」の非情な通告 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金事務所職員から告げられた非情

年金事務所職員の問いに対して、良子さんが「はい、10年前に亡くなった夫の遺族年金を受け取っています」と答えると、職員は「いつから、田中さんと生計を共にされていますか?」と再び質問。「えっ、だから5年前から……」と鈴木さんが答えると、職員が衝撃的な事実を語りだします。

 

「そうですか……。誠に申し上げにくいのですが、お2人は籍を入れていなくても夫婦とみなされ、遺族年金の受給資格は失われます。そして生計を共にした5年前にさかのぼって、お受け取りいただいた遺族年金は、全額ご返還いただくことになるかもしれません」

 

鈴木さんは、一瞬、何を言われたのか理解できませんでした。「そんなの、聞いていません!」。ようやく絞り出した声は、震えていたといいます。月に7万5,000円の遺族厚生年金。5年分といったら450万円。そんなお金すぐに払えるわけがない――。

 

遺族年金は、国民年金または厚生年金保険の被保険者または被保険者であった人が亡くなったときに、その人によって生計を維持されていた遺族の生活を保障するために支給されるものです。しかし、その受給権は永久に続くわけではなく、一定の条件に該当した場合、権利を失うことになります。

 

① 死亡したとき

② 婚姻したとき

③ 直系血族または直系姻族以外の者の養子になったとき(事実上の養子縁組関係を含む)

④ 離縁によって死亡した被保険者との親族関係が終了したとき

⑤ 30歳未満で遺族厚生年金のみ受給している妻(子がいない妻)が受給権発生から5年を経過したとき

⑥ 遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給している妻(子がいる妻)の場合、30歳に到達する日前に遺族基礎年金の受給権が消滅すると、その日から起算して5年を経過したとき

 

②については、法律婚のほか、事実婚も含まれます。具体的には、住民票の続柄が「夫(未届)」「妻(未届)」となっている場合や、同居して生計を同一にしている実態がある場合などが総合的に判断されるのです。

 

鈴木さんのケースでは、田中さんと5年間同居し、生計を共にしていた実態が「事実上の婚姻関係」にあたると判断され、同居を開始した5年前に遡って受給資格を失うことになるかもしれないのです。

 

厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、遺族厚生年金の受給者数は581万人で1人あたり平均8万2,569円を受け取っています。多くの人々の生活を支えている遺族年金ですが、その仕組みを正しく理解していなければ、鈴木さんのように、ある日突然、その権利を失い、多額の返還まで請求されることもゼロではないのです。

 

[参考資料]

厚生労働省『[年金制度の仕組みと考え方]第13 遺族年金』

厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』