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事実婚でも受給の可能性…同一生計とは?
「籍を入れてないので、万一のときに備えてはいました。ただ主人の年金は月18万円ほどあって、それを頼りに生活していたから」
そんな良子さんに転機が訪れたのは、旧知の友人との電話での会話でした。自身の窮状や不安を打ち明けた良子さんに、友人は言いました。
「良子のところは籍が入っていないだけで、長年連れ添った夫婦そのものじゃない。ダメ元で、年金事務所に相談してみたら?」
その一言に、良子さんは藁にもすがる思いで年金事務所の窓口を訪れました。そしてそこで、法律上の婚姻関係がない、いわゆる内縁関係の配偶者であっても、一定の要件を満たせば遺族年金の受給権が認められる可能性があることを知ったのです。
遺族年金には、国民年金に由来する「遺族基礎年金」と、厚生年金に由来する「遺族厚生年金」の2種類があります。前者は子の要件がありますが、後者にはありません。受け取れるとしたら「遺族厚生年金」ということになります。
いずれにしても、配偶者が受け取る場合、亡くなった人に生計を維持されていることが要件となります。「生計を維持されている」とは、「①生計を同じくしていること(同居していること。別居していても、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められる)」、「②収入要件を満たしていること(前年の収入が850万円未満であること。または所得が655万5,000円未満であること)」という、2つを満たしている場合をいいます。
そして良子さんの場合、法律婚でなくとも「事実上婚姻関係と同様の事情にあった」と認められるかどうかが焦点です。事実婚関係が認められるためには、大きく分けて2つの要素が必要とされています。
・当事者間に、社会通念上、夫婦としての共同生活を成立させようとする意思の合致があること。
・当事者間に、夫婦の共同生活と認められる事実関係が存在すること。
これらを証明するために、年金事務所からは様々な書類の提出が求められます。良子さんの場合、幸いだったのは、一郎さんの会社の健康保険に「被扶養者」として長年加入していたことでした。これは、生計を同一にしていたことの強力な証明になります。さらに、2人が同じ住所に長年暮らしていたことを示す住民票(世帯は別々でも、同一住所であれば証明の一助となる)、親族や友人・知人など、2人の関係をよく知る第三者による証明書なども、事実婚を裏付ける重要な資料となりました。
「手続きは大変でした。でも遺族年金がもらえるのともらえないのでは大違いですから」
申請から数カ月。良子さんの元に届いたのが、冒頭の決定通知書だったのです。月7万円の老齢基礎年金とパート収入8万円に、遺族厚生年金8万円が加わり、月々の収入は23万円になります。
「贅沢ができるわけではありません。でも十分、暮らしていける。夫がいない不安はなくなりませんが、将来への不安は大きく減りました」
[参考資料]
日本年金機構『遺族年金』