目の前の業務を早く片付けるために、部下にすぐ答えを教えるか。時間はかかっても、部下の成長のために、問いかけて考えさせるか。多くのリーダーは、日々の忙しさから前者を選びがちです。しかしその積み重ねが、自ら考えない“指示待ち部下”と、すべて自分で背負い込む“多忙なリーダー”という、最悪の悪循環を生み出しています。本記事では、野本果甫氏の著書『人材育成はフィードバックが9割 部下が自走して成果を出すリーダーシップの在り方』(ごきげんビジネス出版)より、部下を育てる質問の仕方を紹介します。
わかりません…コールセンターで流れるナゾの空気。勤続5年、ベテランオペレーター部下の「返答」に上司が愕然としたワケ (※画像はイメージです/PIXTA)

部下の目標達成・自己成長を支援するコミュニケーション

フィードバックするとき、とくに大事な2つのコーチングスキル「傾聴」と「質問」についてお伝えします。フィードバックはそれだけで部下の行動が変わるものではなく、部下に考えてもらうための質問と、部下に話してもらうための傾聴がセットで必要です。

 

部下に考えてもらうための質問

リーダーが部下に質問する機会は多くあると思います。「報告書はいつまでに出せる?」「お客さまへの見積もりって出してくれた?」など、リーダーが情報収集するための質問が多いのではないでしょうか。仕事ではそれも必要なことですが、コーチング式対話における質問は、部下に考えてもらうための質問です。私たちはネットで何か調べるとき、検索エンジンにキーワードを入力します。すると知りたい情報がたくさん出てきますよね。質問は検索エンジンに入れるキーワードのようなものです。

 

部下に質問すると、部下は頭のなかにあるこれまでの経験や学んできた知識などの情報から、質問の答えに該当する情報を探し出そうとします。頭のなかの引き出しにしまってあるリソース(情報や知識)を引き出して、質問の答えになる考えをまとめようとする。これが「考える」ということです。

 

自走する部下を育てるために必要な「上司の質問力」

質問のすごいところは、質問に答えながら、考えを整理できたり、新しいアイデアが浮かんできたり、大事なことに気づいたりすることです。話しながら「やってみよう」「やってみたい」という気持ちになることも多くあります。部下が自分で気づいてやろうと思ったことは、高い確率でやってくれます。

 

部下がうまくいかないことに対して、どうしたらいいか悩んでいるようなとき、ひとりで考えていても、よい考えはなかなか浮かびませんが、リーダーが「どんなところがうまくいっていないと思っているの?」「何かいちばんの問題なの?」「何をすればうまくいくと思う?」など質問すると、部下はその質問に答えながら、モヤモヤしているところが次第にクリアになっていきます。部下は自分で解決策を見つけ、何をすればよいかがわかってくるでしょう。

 

このような会話をするためには、上司の質問力が重要です。管理職研修をしていると「質問して考えさせるより、指示やアドバイスをしたほうが早い」とのご意見をいただくことがあります。その場を早くおさめるためには、たしかにそのとおりかもしれません。

 

しかし指示やアドバイスでは部下の考える力を育てられません。また、何か問題があるたびに上司が状況を把握して適切な指示を出す状況では、ただでさえ忙しいなかでリーダーがやるべき重要な仕事をする時間が少なくなってしまいます。

 

コーチングで目指すところは、最終的に部下が自分で考え主体的に動くことで、目標達成する力を身につけることです。部下にその力がつくとリーダーも楽になります。