奨学金を完済し、ようやく将来への一歩を踏み出せたと安堵したのも束の間、過去の選択が思わぬ形で将来に影響を及ぼすことがあります。それは、多くの学生が利用する「年金制度」に潜む落とし穴。自分は大丈夫だと思っていても、実は気づかぬうちに将来受け取るはずの年金が減っているかもしれません。一見、親切に思える制度の裏に隠されたルールに迫ります。
ふざけるな!「奨学金350万円完済」の35歳サラリーマン、喜び束の間、「30年後に年金が減額になります」の現実に悶絶。紛らわしい「年金ルール」に思わず憤慨 (※写真はイメージです/PIXTA)

「知らなかった」では済まされない…年金が減る「要注意ケース」とは

田中さんが直面した「学生納付特例制度」は、多くの若者が陥りがちな「年金の罠」のひとつです。この制度は、あくまで保険料の支払いを「猶予」するものであり、「免除」とは意味合いが異なります。

 

この期間は年金の受給資格期間(原則10年以上)には算入されるため、「年金がまったくもらえない」という事態は避けられます。しかし、保険料を納めていないため、将来受け取る老齢基礎年金の額には一切反映されないのです。

 

追納は、承認を受けた月から10年以内に行う必要があります。田中さんのように35歳であればまだ間に合う可能性が高いですが、30代後半や40代になってからこの事実に気づいた場合、すでに追納の期限を過ぎてしまっているケースも少なくありません。

 

令和7年度の老齢基礎年金の満額は年83万1,696円です。これは40年間(480ヵ月)すべての保険料を納めた場合の金額であり、単純計算すると、1ヵ月あたりの年金額への反映分は1,733円ほどとなります。つまり、24ヵ月分を追納しないと、毎年約4万円ほど、生涯にわたって受け取る年金が減額されることになります。これが30年、40年と続けば、その総額は100万円を優に超える大きな差となるのです。

 

「知らなかった」では済まされない年金のルールは、これだけではありません。

 

保険料免除・納付猶予制度

学生だけでなく、失業や低所得などを理由に保険料の納付が困難な場合にも、免除や納付猶予の制度があります。これも学生納付特例と同様、承認された期間の保険料を追納しなければ、将来の年金額が減額、あるいは全額免除の場合はまったく反映されません。

 

転職時の空白期間

会社を退職し、次の会社に入社するまでに期間が空いた場合、その間は国民年金に加入する義務があります。この手続きを忘れてしまうと、その期間は「未納」扱いとなり、当然、年金額にも反映されず、受給資格期間にも算入されません。

 

繰上げ受給

原則65歳から受け取れる年金を、60歳から64歳の間に前倒しで受け取るのが「繰上げ受給」で、早くもらえるメリットはあるものの、1ヵ月早めるごとに0.4%ずつ年金額が減額され、その減額率は生涯変わりません。一度選択すると取り消すことはできないため、慎重な判断が求められます。

 

奨学金という借金を無事完済し、正真正銘、学生時代を終えることができたという喜びも束の間、まだ経済的に苦しかった学生時代を引きずっているという事実に直面します。

 

60歳〜65歳までの5年間、自分で国民年金保険料を支払うことで、加入期間を増やせるため、その分受け取れる老齢基礎年金を増やすことができます。ただ任意加入して年金を増やすほうが得か、それとも減額のままのほうが得かは考え方次第です。

 

「憤慨したのは事実です。でも、幸いまだ追納できる期間が残っていた。今回の件で、国や誰かが自分の将来を親切に教えてくれるわけではない、ということが身に染みて分かりました。これからはもっと自分のお金や制度について真剣に学び、自分の力で将来を守っていこうと思います」

 

[参考資料]

労働者福祉中央協議会が行った『高等教育費や奨学金負担に関するアンケート2024』

日本年金機構『令和7年4月分からの年金額等について』

日本年金機構『国民年金保険料の学生納付特例制度』