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久しぶりの帰省、そこに母の姿はなかった
その後、加奈子さんは夫の仕事の都合で地方へ引っ越し、次男も元々地方に住んでいたため、兄妹が顔を合わせるのは年に一度、正月くらいになったといいます。
異変が起きたのは、父の死から5年が経ったころ。数年前から認知症の症状が出始めていた母・花子さんのことが、加奈子さんは気になっていました。
「実家に電話をしても、母が出ることはなく、いつも兄ばかり。最初は『母さんは今、デイサービスに行っている』などと説明を受けていたのですが、何度かけても母の声が聞こえてこないことに、次第に胸騒ぎがするようになりました」
たまらず、加奈子さんは久しぶりに実家へ帰省。しかし、玄関のドアを開けても、母が「おかえり」と迎えてくれることはない。家にいたのは兄の秀一さんだけでした。
母の行方を問い詰める加奈子さんに、秀一さんは悪びれもせず「認知症がひどくなったから、施設に入れた」といいます。そう、弟や加奈子さんに一言の相談もなく、母を施設に入れていたのです。慌てて教えられた施設に駆けつけた加奈子さんは、そこで信じられない光景を目の当たりにします。
「変わり果てた、としか言いようがありませんでした。母は見るからにやせ細り、肌はカサカサに荒れ、顔色も土のようでした。明らかに健康とは言えない状態で、ただ呆然と椅子に座っていたんです」
激しい怒りが、加奈子さんの全身を駆けめぐり、実家に戻ると秀一さんを問い詰めたといいます。
「兄は『認知症が進んで、僕のことも誰だか分からなくなったし、ご飯も食べてくれないし』と言い訳ばかり。『俺に任せておけ』と威勢のいいこと言って、父の遺産を多くもらったのに……本当に情けない」
加奈子さんの怒りを前に、うなだれる秀一さん。さらに衝撃の事実を口にします。
「……もうないんだ」
「はぁ?」
「父さんの遺産はもうない。それに、この家も売ることにした」
秀一さんには多額の借金があった。父から相続した遺産2,000万円と自宅は、すべてその返済と担保に消えていたのです。
「あまりのだらしなさに、怒りを通り越して呆れてしまいました。でも兄のことなど構っていられません。まずは母のケアを立て直すことが最優先です。あの時、安易に兄を信じてしまった自分を心の底から悔やんでいます」