親の介護と遺産相続は、多くの家族にとって避けては通れないデリケートな問題。子どもたちの間で意見が完璧に一致することは珍しく、また一致したとしても、時の流れとともに状況は変わるもの。財産をめぐる安易な合意が家族崩壊の引き金になることもあるようです。
母さんの面倒は俺が見る!〈遺産2,000万円〉を独占した長男の「5年後の裏切り」。変わり果てた母の姿に52歳妹が絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

久しぶりの帰省、そこに母の姿はなかった

その後、加奈子さんは夫の仕事の都合で地方へ引っ越し、次男も元々地方に住んでいたため、兄妹が顔を合わせるのは年に一度、正月くらいになったといいます。

 

異変が起きたのは、父の死から5年が経ったころ。数年前から認知症の症状が出始めていた母・花子さんのことが、加奈子さんは気になっていました。

 

「実家に電話をしても、母が出ることはなく、いつも兄ばかり。最初は『母さんは今、デイサービスに行っている』などと説明を受けていたのですが、何度かけても母の声が聞こえてこないことに、次第に胸騒ぎがするようになりました」

 

たまらず、加奈子さんは久しぶりに実家へ帰省。しかし、玄関のドアを開けても、母が「おかえり」と迎えてくれることはない。家にいたのは兄の秀一さんだけでした。

 

母の行方を問い詰める加奈子さんに、秀一さんは悪びれもせず「認知症がひどくなったから、施設に入れた」といいます。そう、弟や加奈子さんに一言の相談もなく、母を施設に入れていたのです。慌てて教えられた施設に駆けつけた加奈子さんは、そこで信じられない光景を目の当たりにします。

 

「変わり果てた、としか言いようがありませんでした。母は見るからにやせ細り、肌はカサカサに荒れ、顔色も土のようでした。明らかに健康とは言えない状態で、ただ呆然と椅子に座っていたんです」

 

激しい怒りが、加奈子さんの全身を駆けめぐり、実家に戻ると秀一さんを問い詰めたといいます。

 

「兄は『認知症が進んで、僕のことも誰だか分からなくなったし、ご飯も食べてくれないし』と言い訳ばかり。『俺に任せておけ』と威勢のいいこと言って、父の遺産を多くもらったのに……本当に情けない」

 

加奈子さんの怒りを前に、うなだれる秀一さん。さらに衝撃の事実を口にします。

 

「……もうないんだ」

「はぁ?」

「父さんの遺産はもうない。それに、この家も売ることにした」

 

秀一さんには多額の借金があった。父から相続した遺産2,000万円と自宅は、すべてその返済と担保に消えていたのです。

 

「あまりのだらしなさに、怒りを通り越して呆れてしまいました。でも兄のことなど構っていられません。まずは母のケアを立て直すことが最優先です。あの時、安易に兄を信じてしまった自分を心の底から悔やんでいます」