親の介護と遺産相続は、多くの家族にとって避けては通れないデリケートな問題。子どもたちの間で意見が完璧に一致することは珍しく、また一致したとしても、時の流れとともに状況は変わるもの。財産をめぐる安易な合意が家族崩壊の引き金になることもあるようです。
母さんの面倒は俺が見る!〈遺産2,000万円〉を独占した長男の「5年後の裏切り」。変わり果てた母の姿に52歳妹が絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

亡父の遺産…「母の面倒は俺が…」と長男

都心から電車で1時間ほどの郊外に実家を持つ内藤加奈子さん(52歳・仮名)。

 

「わたしが小学生だったころは、この辺りに家なんて全然なかったんですよ。窓から見えるのは一面の原っぱで」

 

懐かしむように、かつての風景を語り始めた加奈子さん。加奈子さんの父(享年70代)がこの庭付き一戸建てを購入したのは、加奈子さんが小学生のころ。兄の秀一さん(55歳・仮名)、次男とともに大喜びした記憶は、今も鮮明に残っているといいます。3兄妹は大学進学を機に実家を離れ、それぞれの家庭を築きました。

 

「父は毎日2時間かけて通勤していました。私たち子どもは『とても真似できない』と、誰も実家に戻ることは考えていませんでした」

 

そんななか、20年ぶりに実家へ戻ってきたのが、長男の秀一さんでした。離婚が成立し、妻子に家を譲る形で実家へ身を寄せたのでした。母の花子さん(80歳・仮名)は「長引かなくてよかったじゃない」と、久しぶりに息子と暮らせることを素直に喜んでいたといいます。しかし、その平穏は長くは続きませんでした。秀一さんが戻って間もなく、一家の大黒柱である父が、突然この世を去ったのです。

 

「元々心臓が弱かった父は、夏の暑さに耐えきれず、ベランダで静かに息を引き取りました。本当に、あっけない最期でした」

 

悲しみに暮れるなか、法事がひと通り終わると、家族は遺産について話し合うことに。遺産は、現在住んでいる自宅と預貯金約2,000万円。それとは別に、母の花子さんを受取人とする生命保険もありました。「保険金もあるから、遺産は子どもたちで分けていいわよ」と花子さん。それに対し、「今後、母さんの面倒はすべて僕が見る。その分、多めに遺産を分けてほしい」と秀一さん。この提案に、加奈子さんと次男は異を唱えませんでした。

 

「遺産争いなんて、うちの家族にはまったく無縁なことだと思っていました。当時、私たち夫婦は特に生活に困っていませんでしたし、何より、長男である兄が『母の面倒をしっかり見る』と言ってくれたのです。それなら、と兄の提案を二つ返事で快諾しました。父の遺産はすべて兄が相続することになったんです。まさか、あの言葉がすべての間違いの始まりだったなんて、その時は夢にも思いませんでした」