(※写真はイメージです/PIXTA)
もう、戻る場所はないんだ…
お盆が明けてしばらく経ったある日、一向に日常に戻ろうとしない息子の姿に、正雄さんは意を決して核心に迫ります。
「朝食の後、リビングでいつものようにテレビを見ている息子に、『お前、いつまでいるんだ。会社はいいのか?』と聞いたんです。それが、すべての始まりでした」
正雄さんのその一言で、張り詰めていた空気が一変したと夫婦は語ります。観念したように俯いた健一さんの口から語られたのは、想像を超えるものでした。
「会社、辞めたんだ」
さらに告白は続きます。健一さんは、会社を退職しただけでなく、離婚が決まっていること、その原因が数千万円にものぼる投資の失敗と借金であることを、ぽつりぽつりと告白したのです。
「都内のマンションも、もう引き払ったあとだったんです。つまり、お盆の帰省というのは嘘で、私たちのもとへ逃げてきたのが真実でした。あの段ボールは、健一の家財道具だったんです……」
時系列で整理すると、(元)妻に内緒で投資→失敗・借金→会社に借金の取り立て→会社に居づらくなり退職→(元)妻にバレて離婚→現在に至る、というものです。息子が帰ってきたと思っていた長期滞在は、すべてが偽りだったのです。
裁判所『令和6年 司法統計(家事編)』によると、離婚理由として最も多いのが男女ともに「性格が合わない」(妻からの申立て16,503件、夫からの申立て9,233件)。また健一さんのケースが含まれる「浪費する」は妻からの申立て3,662件、夫からの申立て1,764件。あくまでも家庭裁判所に持ち込まれたケースに限りますが、夫が原因のお金絡みの離婚劇は珍しくないようです。
健一さんのような40代は、まさに働き盛りであると同時に、家庭や社会で大きな責任を負う年代です。金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)』によると、世帯主40代世帯で「借入金あり」の世帯は71.1%。借入金の平均は2,037万円。また借入目的で最も多いのが「住宅の取得または増改築などの資金」で55.3%。「株式等金融資産への投資資金」については0.0%、「土地・建物等の実物資産への投資資金」は4.9%と、投資に関連する借入はかなりの少数です。
妻に内緒で投資をしたばかりでなく、多額の借金を背負い、会社まで辞めてしまう……三行半を突きつけられても仕方がないといえるでしょう。
「息子を見捨てるわけにはいかない。しかし、私たちは完全にリタイアした身。息子を助けたら老後が不安定になる。最善の策は何なのか……考える時間はあまりにもありませんでした」
結局、健一さんの借金を肩代わりした鈴木さん夫婦。健一さんは、実家で再起を図ろうとしているといいます。
[参考資料]
裁判所『令和6年 司法統計(家事編)』
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)』