多くの人が当たり前のように穏やかな老後を思い描きますが、時として予期せぬ形で完璧に思えた計画が崩れ去ることがあります。その原因は、独立したはずの子ども、というケースも。最初は「少し様子がおかしい」という程度の些細な違和感。それが、やがて家族の平穏を根底から揺るがす大きな亀裂へと発展していくこともあるようです。
もうお盆も終わるのに…40歳長男の謎行動。〈年金月38万円〉70代夫婦の穏やかな老後を崩壊させる「仰天告白」 (※写真はイメージです/PIXTA)

もう、戻る場所はないんだ…

お盆が明けてしばらく経ったある日、一向に日常に戻ろうとしない息子の姿に、正雄さんは意を決して核心に迫ります。

 

「朝食の後、リビングでいつものようにテレビを見ている息子に、『お前、いつまでいるんだ。会社はいいのか?』と聞いたんです。それが、すべての始まりでした」

 

正雄さんのその一言で、張り詰めていた空気が一変したと夫婦は語ります。観念したように俯いた健一さんの口から語られたのは、想像を超えるものでした。

 

「会社、辞めたんだ」

 

さらに告白は続きます。健一さんは、会社を退職しただけでなく、離婚が決まっていること、その原因が数千万円にものぼる投資の失敗と借金であることを、ぽつりぽつりと告白したのです。

 

「都内のマンションも、もう引き払ったあとだったんです。つまり、お盆の帰省というのは嘘で、私たちのもとへ逃げてきたのが真実でした。あの段ボールは、健一の家財道具だったんです……」

 

時系列で整理すると、(元)妻に内緒で投資→失敗・借金→会社に借金の取り立て→会社に居づらくなり退職→(元)妻にバレて離婚→現在に至る、というものです。息子が帰ってきたと思っていた長期滞在は、すべてが偽りだったのです。

 

裁判所『令和6年 司法統計(家事編)』によると、離婚理由として最も多いのが男女ともに「性格が合わない」(妻からの申立て16,503件、夫からの申立て9,233件)。また健一さんのケースが含まれる「浪費する」は妻からの申立て3,662件、夫からの申立て1,764件。あくまでも家庭裁判所に持ち込まれたケースに限りますが、夫が原因のお金絡みの離婚劇は珍しくないようです。

 

健一さんのような40代は、まさに働き盛りであると同時に、家庭や社会で大きな責任を負う年代です。金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)』によると、世帯主40代世帯で「借入金あり」の世帯は71.1%。借入金の平均は2,037万円。また借入目的で最も多いのが「住宅の取得または増改築などの資金」で55.3%。「株式等金融資産への投資資金」については0.0%、「土地・建物等の実物資産への投資資金」は4.9%と、投資に関連する借入はかなりの少数です。

 

妻に内緒で投資をしたばかりでなく、多額の借金を背負い、会社まで辞めてしまう……三行半を突きつけられても仕方がないといえるでしょう。

 

「息子を見捨てるわけにはいかない。しかし、私たちは完全にリタイアした身。息子を助けたら老後が不安定になる。最善の策は何なのか……考える時間はあまりにもありませんでした」

 

結局、健一さんの借金を肩代わりした鈴木さん夫婦。健一さんは、実家で再起を図ろうとしているといいます。

 

[参考資料]

裁判所『令和6年 司法統計(家事編)』

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)』