(※写真はイメージです/PIXTA)
長男の帰省に覚えた「小さな違和感」
都心から電車で1時間ほどの郊外に居を構える、鈴木正雄さん(75歳・仮名)と妻の和子さん(72歳・仮名)。2人は年金月38万円ほどの収入で穏やかな老後を送っていましたが、急に雲行きが怪しくなりました。
それは、ある年の夏。お盆を数日後に控えた週末、大手メーカーに勤める長男の健一さん(40歳・仮名)が、一人で実家を訪れたのが事の始まりでした。
「例年なら家族みんなで来るのに、その年は息子が一人で、大きなスーツケースを引いて現れたんです。少し驚きました」
正雄さんは、当時をそう振り返ります。健一さんは「長めの休みがとれた」とだけ言い、孫たちが来ない理由については「今年は子どもたちの習い事で大事な試合があるらしくて、どうしても都合がつかない」と説明しました。
一度は納得したものの、次第に違和感を覚えるようになったといいます。
「長期休暇だというのに、どこへも出かけず、家の中にずっといるんです。時々、深刻な顔で誰かと電話しているようでしたが、私たちが尋ねても曖昧に笑うだけで」(和子さん)
夫妻をさらに困惑させたのが、次々と届く宅配便でした。健一さん宛の段ボール箱が日に日に増え、かつて書斎として使っていた部屋を埋め尽くしていきます。
「さすがに『一体何なんだ』と問い質しました。そうしたら息子は、『会社の機密資料で、家で整理しないといけないんだ』と。今思えば、その時点で何かが完全におかしかった。でも、息子の言うことを信じていました」(正雄さん)
そして、世間ではお盆も終わり、日常が帰ってきても、健一さんが帰る気配はなかったといいます。