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夫の年金は月28万円。「これで安心だ」と信じていた
「夫が亡くなる前は、お金の心配なんて、正直なにもしていませんでした。あの人が遺してくれた年金があれば、この先一人になっても大丈夫だって、本気でそう思っていたんです」
そう力なく語るのは、竹中幸子さん(70歳・仮名)です。1年ほど前に年上の夫・和夫さん(享年72歳・仮名)を病気で亡くしました。穏やかで働き者だった夫との日々は、経済的な不安とは無縁だったといいます。
夫・和夫さんは60歳の定年後、「健康にもいいだろう」と働き続けることを選択。完全引退したのは72歳になってからでした。それから年金生活をスタートさせましたが、繰り下げ受給の効果により、受給額は月28万円。幸子さん自身の年金と合わせると、夫婦の手取りは月30万円ほどになりました。
総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における消費支出は月額で約25.7万円。竹中さん夫婦の収入は、この平均を大きく上回り、ゆとりのある暮らしを可能にしていました。
「『年金は繰り下げで1.5倍に増やしたぞ。これだけあれば、俺に万が一のことがあっても、お前は結構な額の遺族年金がもらえるはずだ。だから安心しろ』。夫は生前、そう言っていました。私も、何かあっても大丈夫だと漠然と思っていたんです」
幸子さんは当時をそう振り返ります。漠然とした「遺族年金があるから万一の場合も安泰」という、揺るぎない思い込みを作り上げていたのです。
夫の四十九日を終え、少しずつ日常を取り戻し始めた幸子さんは、遺族年金の手続きのために年金事務所を訪れました。しかし、そこで幸子さんは厳しい現実を知ります。
「窓口で職員の方に書類を見せながら説明を受けたのですが、まず『ご主人の年金28万円のうち、遺族年金の計算対象になるのは老齢厚生年金の部分だけです』と言われて。『えっ?』と思いました」
これが最初のつまずきでした。よく聞く「遺族年金は、亡くなった人の年金の4分の3」という情報は、実は不十分なのです。正しくは「遺族厚生年金は、亡くなった人の厚生年金の4分の3」。国民年金から支給される老齢基礎年金部分は対象外で、あくまで会社員時代の報酬に比例する老齢厚生年金の部分だけが計算のベースとなるのです。
さらに、追い打ちをかける事実が告げられます。
「『夫が72歳まで頑張って繰り下げたことで増えた分も、遺族年金の計算にはまったく関係ありません』と……」
和夫さんの努力の結晶ともいえる「繰下げ加算額」が、遺族年金には一切反映されない。この非情な事実に、幸子さんは言葉を失います。
そして職員から提示された遺族厚生年金の概算額は、月にして約8万円。
「思わず、『たった、それだけ……』と言葉がこぼれました。夫は生前、『俺に万が一のことがあっても大丈夫だ』と言っていたのに。全然、大丈夫じゃありませんでした」
幸子さんは、その場で膝から崩れ落ちそうになるのを必死で堪えたといいます。