「自宅を売って現金化、でも引っ越しは不要」。老後の資金問題を解決する一手として注目されるリースバック。しかし、安易な利用は、むしろ老後を脅かすことになる可能性も……。実情をみていく。
リースバックを選んだばっかりに…「年金月5万円の75歳女性」老後資金1,200万円を確保したはずが、悔恨の念に駆られる理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

リースバックを後悔する理由

数週間後、美恵子さんの口座には1,200万円の振り込みが。ひとまずの生活資金が確保できたことに心から安堵した。

 

しかし、その安堵は長くは続かない。

 

「リースバックを選んだばっかりに……。後悔しています」契約から2年が経ったいま、美恵子さんは力なく呟く。彼女を苦しめているのは、毎月支払う「家賃」だった。9万円という家賃は、年金収入だけでは到底賄えない。結局、家を売って得た資金を取り崩して支払うしかないのだ。

 

「まとまったお金が入ったようにみえて、結局は自分の資産を食い潰しているだけ。しかも、以前はかからなかった家賃という名の固定費が追い詰めてくるんです」

 

売却額1,200万円も、周辺の不動産相場を調べると、1,500万円以上で売れた可能性が高かったことがのちにわかった。足元をみられたのかもしれない。しかし、それ以上に美恵子さんを不安にさせているのは、「所有者ではない」という事実だ。

 

先日の台風で雨漏りが見つかった際、業者に連絡すると「修繕の義務はこちらにありますが、いつ対応できるかはわかりません」と、にべもない返事。自分の家だったころは、すぐに馴染みの工務店に頼めたのに、いまはそれもできない。足腰が弱ってきたため、壁に手すりを一本つけようにも、大家であるリースバック業者の許可が必要になる。

 

さらに、美恵子さんの契約は「定期借家契約」だった。契約期間は3年。つまり、来年には契約が更新されず、「家賃を値上げします」といわれたり、最悪の場合は「退去してください」と通告されたりする可能性があるのだ。

 

「来年、もし追い出されたら、私はどこへ行けばいいんでしょう。買い戻すという選択肢も説明されましたが、売ったときよりずっと高い金額を提示されていて、とても無理です。住み慣れた家で最期を迎えたいという願いも、もう叶わないのかもしれない……」美恵子さんの目には、涙が浮かんでいた。安心を得るための選択だったはずのリースバックが、いまでは彼女から心の安息を奪い続けている。

リースバックのメリット・デメリット

リースバックは有効な仕組みにみえる一方で、多くの注意点が存在する。契約を結ぶ前に、メリットとデメリットを正確に理解しておくことが重要だ。

 

メリット

〇自宅を売却するため、比較的短期間でまとまった現金を確保できる。

〇売却後も賃貸契約を結ぶことで、住み慣れた家に住み続けられる。

〇売却で得た資金は、生活費や事業資金など、自由に使うことができる。

〇家の所有権が移転するため、固定資産税や都市計画税の支払い義務がなくなる。

〇不動産を現金化しておくことで、相続時の分割トラブルを回避できる。

 

デメリット・注意点

〇業者は、将来の空室リスクや不動産価格の下落リスクを考慮し、一般的な市場価格の7〜9割程度で買い取る。このため、売却価格が市場価格より安くなる傾向にある。

〇業者の利益を確保するため、周辺の家賃相場よりも高い賃料が設定されるケースが多い。結果として、長期的にみると生活が圧迫される可能性も。

〇当然だが、家は自分のものではなくなるため、自由にリフォームや増改築はできなくなり、資産価値が将来上昇してもその恩恵は受けられない。

〇「定期借家契約」の場合、契約期間が満了すると、貸主(業者)の合意がなければ更新されず、退去を求められるリスクも。契約更新が可能な「普通借家契約」かどうか、確認が必要。

〇将来的に家を買い戻せるオプションが付いている場合でも、その価格は売却価格よりもかなり高く設定されているのが一般的。