(※写真はイメージです/PIXTA)
もう疲れたんだ…年収1,500万円を捨て、故郷へ
都内ワンルームマンションで暮らす高橋健一さん(55歳・仮名)。コンビニエンスストアで買ってきた弁当を食べながら、この10年ほどの出来事を話してくれました。
元々、外資系のIT企業で働いていた健一さん。45歳当時、年収は1,500万円を超え、都心からもほど近いマンションに居を構え、妻の由美子さん(当時43歳)、長男の翔太さん(当時9歳)、長女の美咲さん(当時8歳)と家族4人で暮らしていました。周囲から見れば何不自由ないサラリーマン一家に見えたでしょう。しかし、その内実は心身をすり減らす日々の連続でした。
「常に結果を求められ、いつクビを切られるかわからないプレッシャー――もう、疲れ果ててしまったんです。そんなとき、ふと故郷のことを思い出しました。山と川に囲まれた小さな町。そこには、東京とは違う穏やかな時間が流れていたな、と」
大学進学とともに上京して以来、帰省するのは盆と正月の年2回、あるいは正月のみ。2、3日実家に泊まって東京に戻るという、なんとも淡白な帰省でした。しかし、都会の慌ただしさに疲れ果てた今、ゆったりと時間が流れていた日々が輝いて思い出されます。
「故郷に帰りたい――」。妻の由美子に伝えると、「正気? 翔太はもうすぐ中学生だし、美咲だってこれからが大事な時期なのよ。子どもたちの学校はどうするのよ」と健一さんの提案に猛反対。しかし、燃え尽き症候群に陥っていた健一さんの耳に、由美子さんの訴えは届きません。
「自然豊かな環境のほうが、教育にもいいだろう」という一方的な理屈を振りかざし、強引に会社を退職して家族と故郷の町へ移住。退職金と貯蓄で中古の戸建てを購入しました。それまでマンション暮らしだったこともあり、広い庭付きの戸建てに子どもたちは大喜び。その姿をみて、由美子さんも「子どもたちが喜んでいるなら仕方がない」と納得したようでした。