(※写真はイメージです/PIXTA)
夢の先に見た、現実という名の地獄
1,000万円上乗せされた退職金を手に、会社を去った田中さん。「これから第二の人生が始まるんだ」と胸を躍らせていたといいます。しかし、その期待はすぐに打ち砕かれることになります。
まず立ちはだかったのは再就職活動の壁。会社から紹介された再就職支援サービスを利用しましたが、提示される求人は、田中さんがこれまで培ってきたキャリアやスキルとはかけ離れたものばかり。給与水準も大幅に下がり、自身の経験が活かせない職務内容に愕然としました。
「正直、これまでのキャリアが何だったのかと思うくらい、自分の市場価値が低いことを思い知らされました。提示される給与も、現役時代の半分以下。これでは生活が成り立ちません」
焦りを感じ始めた田中さんは、自らハローワークに通い始めました。しかし、そこで目の当たりにした現実は、田中さんの想像をはるかに超えるものでした。求人票には「経験不問」と書かれていても、実際には若い人材が求められているケースがほとんど。年齢の壁は、田中さんが思っていた以上に厚く立ちはだかっていました。
さらに、ハローワークで目の当たりにしたのは、自分と同じような境遇の中高年層が大勢いるという現実でした。パーソル総合研究所が行った調査では、企業の約4割が「50~60代正社員を過剰、やや過剰と感じている」と回答。特に大企業で、50~60代正社員の人材過剰感が強いことがわかりました。このような状況下、50代後半に差し掛かっている田中さん。再就職が厳しいのは当然のことといえるでしょう。
「会社にいたときは、自分の経験やスキルはどこでも通用すると思っていました。でも、現実は違いましたね。ハローワークの職員の方からも、50代後半の再就職は非常に厳しいと言われました。まさに、地獄を見ているような気分です」
早期退職時に上乗せされた1,000万円も、生活費と再就職活動費に消えていくばかり。貯蓄は日に日に減り、田中さんの心には焦燥感と後悔の念が募るばかりです。
「あの時、もう少し慎重に考えていればよかった。会社にしがみつく、ずうずうしさがあれば……甘い言葉につられて、早とちりしてしまいました。今は、あの頃の自分が心底憎いですよ」
田中さんの言葉には、後悔と疲労の色が濃く表れていました。早期退職は、高額な退職金の上乗せという甘い誘惑の裏に、厳しい現実が待ち受けているケースも少なくありません。安易な決断が、後の人生に大きな影を落とす可能性もあるのです。
[参考資料]
厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』