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穏やかな老後生活に忍び寄る「親切」という名の罠
「年金暮らしでも、思ったより楽しいもんですよ。朝は早起きして家庭菜園に水やり。昼は読書か映画を観て、夜は……早く寝る。自由な時間がたっぷりあるって、若いころには想像できなかったですね」
そう話すのは松永誠さん(仮名・65歳)。60歳で定年を迎えたのち、再雇用期間を経て完全リタイア。現在は公的年金月額15万円で暮らしています。
住宅ローンは退職金で完済済み。車は所有せず、交通は電動自転車とバスを利用。食費も外食を控え、基本は自炊。趣味の家庭菜園では季節の野菜を育て、近所におすそ分けすることもあるとか。決して裕福とは言えませんが、質素な生活に満足していたといいます。
「現役時代から節約志向。無理な贅沢さえしなければ、年金だけでもやっていけると確信していました。老後破綻なんて、別世界の話だと思っていたんですよ」
しかし、そんな松永さんの生活が一変します。ある日、自宅に突然やってきた作業着姿の男性。「近所で工事をしていて、お宅の屋根に気になるところがあって」と声をかけてきました。無料で屋根の点検をすると申し出たため、松永さんは特に疑いもせず、それを受け入れました。
「優しそうな若者で丁寧に対応してくれたので、てっきり自治体の関連業者か何かだと思い込んでしまったんです」
点検を終えた業者は「屋根材のズレや雨漏りの恐れがある」と説明し、修理を勧めてきた。費用はおよそ30万円。内容は具体的で、施工事例の写真もスマートフォンで提示されました。その場では即決しなかったものの、数日後に再訪した業者に「このままだと台風で大変なことになります」と強く言われ、最終的に契約。手持ちが足りず、消費者金融で借り入れを行いました。
「実際に何が悪いのか自分では分からないですからね。『今直さないと大変なことになる』と畳みかけられたら、不安になってしまって……」
ここから松永さんのもとには、別の業者が次々と現れるようになった。「シロアリの点検」「外壁のヒビ」「床下の湿気」「給湯器の劣化」など、内容は多岐にわたります。いずれも「無料点検」から始まり、「今が工事のチャンス」と迫ってくる流れ。
最初は疑念もありましたが、どの業者も「たまたま通りがかりで」と話し、点検後には写真や図面で「危険性」を訴えてきます。結果的に、1年足らずで工事費は合計180万円に達した。
「気がつけば貯金も底をつき、年金からローンの返済をする日々に。外食なんてもう何カ月もしていません。家に誰かが訪ねてくるだけで、今はもう怖いです」