相続問題と聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか。多くの人は、「財産がたくさんある家に起こるトラブル」というイメージを持っていると思います。何億円もの財産を巡って親族が骨肉の争いを繰り広げる――などと考えがちです。しかし、実態は大きく異なっていて……。本記事では、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が、父の遺産を巡り泥沼の「争族」に発展した一家の事例から、相続問題の根本原因に迫ります。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
お前には1円も渡さん!…資産6億円の地主の父。“優等生”の58歳・公務員長男ではなく、“口のうまい”54歳・自営業次男への「全財産相続」を宣言→兄弟は「50年分の鬱憤」を晴らす醜い罵り合いへ【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

2人の子供の性格の違い

父Tさんを悩ませるのは2人の性格の違いです。

 

長男は幼いころから大人しく真面目。勉強をよく頑張り、地元でも優秀な高校に進学し、東京都内の有名私立大学に入りました。卒業後は地元に戻らず、東京都内で公務員として働いています。問題行動を起こしたことがないため、周囲からの評判は上々の長男でしたが、父Tさんからするとどうも可愛げがないのです。大人になると冗談が通じない性格になり、どこか他人を見下したような目を父親にも向けることがあります。

 

「あの目は、お偉いお役人の目だ。税務調査に来た偉そうな役人も、昔取り調べを受けた警察官も同じ目をしていた。青二才のくせに俺を見下しやがって、自分が正義の存在だとでも思ってるんだろう」そう周囲にこぼすことが多々ありました。父Tさんは若いころに脱税と、公職選挙法違反で二度逮捕されたことがあるのです。そのときの取り調べがトラウマになっているようで、公務員と聞くだけで拒絶反応がでます。

 

一方で、次男Sさんは父Tさんにとって、非常に心を許せる存在です。長男と違って勉強のほうはさっぱり。地元の工業高校に進み、自動車整備士の資格を取るために専門学校に入りました。卒業後、自動車ディーラーに10年勤めたあと、輸入車専門の中古車販売店を起業。厳しい時代もありましたが、40歳を超えるころにやっと軌道に乗りました。現在では社員が数十人いる中小企業に育っています。

 

この次男Sさんは、ビジネスマンといった風情でとても人当たりが柔和なのです。 滅多に実家に近づかなかった長男Kさんと違い、ことあるごとに両親に会いに来たのが次男Sさんです。

 

「親父、これ出張先で買ってきたよ」次男Sさんはそういって、父Tさんが好む珍しい日本酒を携えてきます。酒屋だった父Tさんが若いころ、やっとのことで蔵元を説得して取り扱うことができた日本酒です。この銘柄のおかげで酒屋が繁盛したといっても過言ではありません。「お前はほんとに俺のことを知っているな」と父Tさんは上機嫌。当時の苦労話も次男Sさんに聞かせます。「さすが親父だよ、ガッツがあるね。俺も負けてられないね」と持ち上げるので、父Tさんはさらに喜び、「お前も商売を苦労してきただろうから、俺の過去のことも理解できるのだろう」と機嫌よく盃を傾けるのでした。

 

次男Sさんは50歳を超えていますがいまだ独身。これまで女性問題を数多く起こし、その都度、父Tさんが叱るものの、結局「経営者っていうのは多少ヤンチャなくらいがいいんだ」と許してしまいます。