相続問題と聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか。多くの人は、「財産がたくさんある家に起こるトラブル」というイメージを持っていると思います。何億円もの財産を巡って親族が骨肉の争いを繰り広げる――などと考えがちです。しかし、実態は大きく異なっていて……。本記事では、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が、父の遺産を巡り泥沼の「争族」に発展した一家の事例から、相続問題の根本原因に迫ります。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
お前には1円も渡さん!…資産6億円の地主の父。“優等生”の58歳・公務員長男ではなく、“口のうまい”54歳・自営業次男への「全財産相続」を宣言→兄弟は「50年分の鬱憤」を晴らす醜い罵り合いへ【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

「死期はそう遠くない」酒屋から地主になった86歳父、目下の心配事

<事例>

父Tさん  86歳 地主
長男Kさん 58歳 地方公務員 年収1,000万円
次男Sさん 54歳 会社経営 年収2,300万円

 

戦前生まれの父Tさんは86歳。東京都心から電車で1時間ほど離れた郊外の小さな街で、長年酒屋を経営してきました。父Tさんが高校を卒業してすぐに修行に入った酒屋は、Tさんが23歳のときに経営者が急逝。経営者の親族からの依頼でTさんが買ったのが始まりです。

 

高度成長期に店の周りに団地が増え、商売はうなぎのぼりでした。見合い結婚をして28歳のときに長男Kさんが生まれます。4年後、次男Sさんが誕生。夫婦で店を切り盛りしてきたため、子育てが熱心だったとはいえません。いつも店の奥にあった座敷で子供2人を遊ばせながら仕事をしてきたのですが、思い出すとそれはそれで楽しかった気もします。

 

酒屋で稼いだお金を使って、父Tさんは数多くの土地を買い、次々にアパートを建築しました。住宅が不足していた時代ということもあって、不動産経営も順調。土地からの地代収入も増えていきました。1980年代のバブル期には地元でも有名な地主になっていったのです。

 

しかし、父Tさん、3年前に急性心筋梗塞を患ってからずっと体調がよくありません。自宅ではベッドに寝ていることが増え、声も小さくすっかり痩せてしまいました。妻のYさんが10年前に胃がんで亡くなってからは店も閉じ、ずっと1人暮らしを続けています。

 

思い悩んでいるのは自身の相続のこと。築き上げた約6億円の資産を、子供2人にどうわけたらいいのか、答えが出ません。6億円がすべて現金であれば均等にわければ済むのですが、大半が不動産であり、現金は多くはなく綺麗にわけることができないのです。また、すべて売却し現金化してわけることも考えましたが、所有するアパートはすべて満室。ここから発生する家賃収入は今後も見込まれ、手放さず子供たちに相続したいという思いもあります。

 

子供2人は長男が夫婦ともに公務員、独身の次男は会社経営と、どちらも裕福です。しかし公務員の長男に不動産経営をする商売の才覚はないと思っています。次男はビジネスマンであることから、不動産経営も任せられそうなのですが、えこひいきをするのはどうなのか……。

 

なかなか答えがみつかりません。